同じ指示でも成果が違う理由
「採用するなら、1言えば10とまでいかなくても7か8ぐらいまでわかる人がいいですね」。先日、知り合いと人材採用の話をしていた時に出てきた言葉です。同じような表現に「未経験でもいいけれど、地頭がいい人がいいね」というものがあります。
もちろん、1言えば10わかってくれる人の方がありがたいし、地頭もなるだけ良いほうがいい。でも、そうは問屋が卸さないのが、人相手の採用の世界です。
実際のところ、どんなに優秀な人を採っても、仕事の進め方や考え方の「社内流」が身につくまでには時間がかかります。さらに言えば、同じ説明をしても、すぐに動ける人と、途中で手が止まる人がいる。
「何度言っても伝わらない」と感じる時、問題は相手の理解力だけでなく、指示を出す側の“見立て” にあるのかもしれません。
人の習熟レベルには段階があります。まったく初めての人、経験はあるが応用が苦手な人、自分の判断で進められる人――。
ところが多くのリーダーは、部下のこの違いを意識せず、全員に同じトーンで指示を出してしまいます。それはちょうど、全員に同じサイズの靴を履かせるようなもの。うまく歩ける人もいれば、靴ずれを起こす人もいる。その結果、同じ指示でも成果に差が出るのです。
つまり、相手のレベルに応じて指示の抽象度を変える必要があるということです。
経験の浅い人には「何を」「どの順で」「どんな注意点で」やるかを具体的に伝える。ある程度慣れてきた人には「目的」と「基準」を示し、やり方は任せる。そして熟練者には「ゴール」だけを共有し、自由に考えてもらう。
優れたリーダーほど、この“さじ加減”を無意識に使い分けています。
ところが現場では、「任せたつもりが放り出していた」というケースが少なくありません。忙しいあまり、「後は頼んだよ」とだけ言って現場を離れてしまう。リーダー自身が「もう言わなくてもわかるだろう」と思っていると、こうなります。けれども、相手がどの程度理解しているかを確認しないまま任せてしまうと、誤解や迷いが生まれるのです。
難しいのは、リーダー自身もその分野のことがわからない「本邦初のチャレンジ」をするときです。IT関係のときはよく起こる現象です。この場合、リーダーも指示を出すことができないので、相談しながら進めるというのがベストな方法となります。そして失敗しても元に戻ればいいという具合に、許容の範囲を広げておく必要があります。
結局のところ、同じ指示でも成果が違う理由は、指示の仕方や言葉の使い方ではありません。相手の状態をどれだけ見ているか、どれだけ寄り添って伝えられているか。この「見る力」が、現場マネジメントの質を決めます。
“1言えば10わかる人”を探すより、1言を10に広げて理解してもらえるように関わる。その方が、組織の力は確実に上がります。言うは易し、行うは難しの世界ですが、導く側にもトレーニングが必要ということに他なりません。
さて、あなたの会社では、どんな“伝え方”が日常になっているでしょうか。
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