「あの仕事、どうなった?」の口癖の背後にある本当の理由

「よくあることなんですよ。前に社員に指示を出した案件がなかなか進まないので、“あの件、どうなった?”と聞くと、“いまほかの仕事で忙しくて”とか“この仕事が終わったら”とかいう返事が返ってくる。本当は忘れてたんじゃないのかとか、やりたくないんじゃないかとか邪推してしまいますよ」。こんな風に苦笑交じりに仰る経営者がいました。会社員時代の自分も思い出して、あるある……とこちらもまた苦笑。
こういうことは、どこの会社でも多少なりともあるでしょう。頼んだ仕事が思ったように進まない。確認すると「いまやっています」と言われる。その場では「じゃあよろしく」と終わるのですが、しばらくすると別の案件でも同じことが起きる。違う社員に頼んだ仕事でも、似たような返事が返ってくる。
すると経営者の側は、だんだん疑心暗鬼になります。本当に忙しかったのか。優先順位がわかっていないのか。そもそもやる気がないのか。だから、その都度、期限を確認したり、もっとしっかりやるように注意したりします。
それで一件は片づくかもしれません。でも、しばらくするとまた別のところから「あの仕事、どうなった?」が出てきます。経営者は会社中の仕事を記憶して、気にかけ、追いかけることになる。これでは疲れるのも当然です。
こういう状態は、モグラ叩きによく似ています。出てきた問題を一つ叩く。やれやれと思っていると、今度は別の穴から出てくる。そこでまた叩く。だんだん叩き方も上手になりますが、残念ながらモグラが出てくること自体は止まりません。
問題を一つひとつ別物として見ている限り、この状態から抜け出すのは難しいのだと思います。
Aさんの仕事が遅い。Bさんは報告がない。Cさんは優先順位を間違える。そうやって数えていけば、問題はたくさんあるように見えます。
でも少し離れて眺めてみると、実は「頼んだ仕事が、頼んだままでは進まない」という同じことが、形を変えて繰り返されているだけかもしれません。
ここで初めて、見る場所が変わります。
水面の上に見えているのは、仕事の遅れや報告不足です。ところが、その下には別のものが隠れています。
誰が最後まで責任を持つのか曖昧になっている。期限は言われたけれど、ほかの仕事と比べた優先順位がわからない。途中で行き詰まったとき、どの段階で相談すればいいのかわからない。そもそも頼んだ側は「当然ここまでやる」と思い、頼まれた側は「ここまでやればいい」と考えている。そのズレに誰も気づいていないこともあります。
さらにその奥には、会社の中でいつの間にか出来上がった気持ちや前提があります。
「勝手に判断して間違えるくらいなら、指示を待ったほうがいい」「急ぎの仕事を頼まれたら、前の仕事は後回しにしても仕方がない」「途中経過を報告すると、細かく口を出されるから、終わってから言ったほうがいい」。
誰かがそう決めたわけではないのに、長い時間をかけて、そんな仕事の仕方が会社の中に定着していることがあります。
だとすると、「もっとちゃんとやってくれ」と言うだけでは、なかなか変わりません。社員一人ひとりの性格や能力だけの問題ではなく、その行動が生まれやすい仕組みや空気が、会社の中にできているからです。
経営者としては、目の前に出てきた問題を早く片づけたいものです。実際、急いで対処しなければならないことも多いでしょう。ただ、同じようなことが何度も起きているなら、一件ずつ対処するだけではなく、「なぜ、この会社では同じことが形を変えて繰り返されるのか」と問いの向きを変えてみる必要があります。
一つの出来事だけを見ると、人の問題に見えます。繰り返される出来事をまとめて見ると、仕組みの問題が見えてきます。そして、その仕組みがなぜできたのかを考えると、そこで働く人たちの気持ちや、会社の中で当たり前になっている考え方まで見えてきます。
「あの仕事、どうなった?」という言葉が何度も口から出てくるとしたら、それは単に社員をもっと管理すべきという話ではないのかもしれません。会社のどこかに、経営者が追いかけなければ仕事が前に進みにくい構造がある。そのことを知らせるサインとも考えられます。
さて、あなたの会社では、湧いてくる問題を一件ずつ追いかけ続けますか。それとも、その問題が繰り返し現れる理由に目を向けますか。
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