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経営には徳治と法治がある

SPECIAL

親子経営コンサルタント

ビジネス・イノベーション・サービス株式会社

代表取締役 

オーナー社長と後継者のための、「親子経営」を指導するコンサルタント。みずから100億円企業を築くも、同族企業ならではの難しさや舵取りの大変さで苦しんだ実体験を指導。親から子へ失敗しない経営継承の極意として「親子経営」を伝授する。

経営には徳治と法治がある

今日は私の子どもたちに経営の話しをしておこう。
第4話

【経営には徳治と法治がある】

 人の上に立つ立ち方の話だ。

 社員を持つ経営者がリーダーとしてどのように社員と関わればいいのか、社員との関係性はどのようであればいいのかという話になる。

今では見ることが少なくなった、かつての日本的経営というのがある。社長が親父で、奥さんは母親、そして社員は子どもたち、社長と社員はみんな家族だ。

社長は怒ると怖いけど、普段はみんなに優しい。今は亡き渥美清主演の「男はつらいよ」シリーズの寅さんの叔父さんが営む団子屋の裏に印刷会社があった。寅さんにいつも「タコ社長」と呼ばれていたっけ。

あの社長のイメージだ。社員とともに社長自身も日々忙しく走り回っている。社員に何かがあれば、とことん心配し、面倒をみる。社員が間違ったことをすると、徹底して叱る。反省すれば許してやる。

社長が親父のようで安心感がある。そんな会社がちらほらとあった時代がある。経営者の人格に魅力があり、社員が懐き、一生懸命仕事をする。

一方、事業規模が大きくなり社員が増えると、どうしてもルールが必要となる。その結果、社長と社員の距離が遠くなり、ドライな関係性ができあがってしまう。

それでも日本的経営の良さを大きな企業で、残し、生かせないものだろうか。経営者による徳治とルールによる法治を上手く融合させた日本的経営を実践することができないものだろうか。

 私は、この二つは決して相反するものではないと思っている。むしろ、会社が長く続いていくためには、両方が必要なのだと思う。

徳治とは、経営者自身の人柄や人格、信頼によって人を動かすことだ。「あの社長のためなら頑張ろう。」「あの人が言うのなら、もう一度やってみよう。」社員にそう思ってもらえる経営者になることだ。

これは命令ではない。恐怖でもない。その人についていきたいと思わせる力である。

反対に法治とは、会社として守るべきルールを明確にし、そのルールによって組織を運営することだ。誰がやっても同じ基準で判断できる。会社が大きくなればなるほど、これは必要になってくる。

社長一人の判断だけで、すべてを決めることはできなくなるからだ。問題は、法治だけになってしまうことだ。

ルールを守っているから、それでいい。規則に書いていないから、それはできない。会社の決まりだから、そうしてください。そんな言葉ばかりになれば、会社から人間味がなくなっていく。

社員も「この会社のために働いている」というより、「会社から給料をもらうために働いている」という感覚になってしまう。

もちろん、それがすべて悪いわけではない。社員と会社との間には契約がある。公平なルールも必要だ。しかし、人間はルールだけでは動かない。人は感情を持った生き物だからだ。だからこそ、経営者の徳が大切になる。

私は以前、リーダーについて「人は上に立つ人を見ている」と話した。社員は経営者の言葉だけを見ているのではない。

困った時にどうするのか。社員が失敗した時にどうするのか。自分に都合が悪くなった時にどうするのか。弱い立場の人にどう接するのか。そういう日々の経営者の姿を見ている。そして、「この人についていって大丈夫なのか」を無意識に判断している。

徳とは、そういう日々の積み重ねから生まれるものなのだと思う。だから、徳を身につけようと思って急に身につくものではない。毎日の言動。

小さな約束を守ること。人の悪口を言わないこと。困っている人を放っておかないこと。間違った時には素直に謝ること。自分の利益だけを考えないこと。そんな一つひとつの積み重ねが、やがてその人の人格となる。そして、その人格が会社の文化をつくっていく。

私は、これが日本的経営の良さの一つだったのではないかと思っている。会社は単なる利益を生み出す装置ではない。そこには人がいる。人が働き、人が悩み、人が成長し、人が生活をしている。

ただし、ここで勘違いしてはいけないことがある。徳治とは、経営者の好き嫌いで人を扱うことではない。「俺についてこい」と言って、社長の気分で会社を動かすことでもない。それでは単なるワンマン経営になってしまう。

だからこそ、法治が必要なのだ。公平なルールをつくる。役割と責任を明確にする。評価の基準を明確にする。会社としてやってはいけないことを明確にする。そして、そのルールは経営者自身も守る。

そのうえで、最後に人間として社員と向き合う。私はこれが理想なのではないかと思っている。

徳治だけでも駄目。法治だけでも駄目。徳と法を上手く組み合わせる。これからの日本の会社には、そんな経営が必要なのではないだろうか。

特に親子経営の会社では、このことをよく考えてほしい。先代が「俺の会社だから」と何でも自分の思い通りにするのではいけない。かといって、先代の良さまで全部捨てて、ルールだけの会社にする必要もない。

先代が長年かけて築いてきた「人を大切にする文化」は、後継者が受け継げばいい。そのうえで、時代に合わなくなったところは仕組みに変えていけばいい。「守るべきもの」と「変えるべきもの」を見極める。これも後継者の大切な仕事である。

君たちも、いつか人の上に立つことがあるだろう。その時、社員をルールだけで動かそうとしないでほしい。同時に、自分の人柄だけで会社を動かそうともしないでほしい。

人として信頼される経営者でありながら、公平な仕組みを持った会社をつくる。社員から「この会社で働いてよかった」と思ってもらえる会社をつくる。

会社で働く人が増えるほど、ルールは増える。丁度今、かな子が日々悩んでいるところだね。例え少人数であったとしても公平さとルールが必要だってね。

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