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専門コラム「指揮官の決断」 No.053 国連軍司令部をご存知ですか?

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クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)コンサルタント

株式会社イージスクライシスマネジメント

代表取締役 

経営陣、指導者向けに、クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)を指導する専門家。海上自衛隊において防衛政策の立案や司令部幕僚、部隊指揮官として部隊運用の実務に携わる。2011年海将補で退職。直後より、海上自衛隊が持つ「図上演習」などのノウハウの指導依頼を受け、民間企業における危機管理手法の研究に着手、イージスクライシスマネジメントシステムの体系化を行い、多くの企業に指導、提供している。

The United Nations flag waves at Yokota Air Base, Japan, Jan. 10, 2014. Yokota AB is one of the United Nation Command bases, under the UNC-Japan Status of Forces Agreement (SOFA) Decrees. (U.S. Air Force photo by Osakabe Yasuo/Released)

日本列島越しに弾道ミサイルを発射し、我が国に空襲警報を鳴らさせた北朝鮮ですが、このところ沈黙を守っているようです。

ネット上では、米国は臨戦態勢に入ったとか、年内に開戦必至などという噂が駆け巡っています。極東を行動中の米空母が3隻になったことから、この類の噂話が背びれ尾びれをつけてネット上を賑わしているようです。

米空母が3隻集まったのには、別に理由があります。
 ロナルド・レーガンが朝鮮半島付近を行動したのは米韓軍事演習参加のためで、北朝鮮へ圧力をかける目的があったことは明白ですが、ニミッツはペルシャ湾で米海軍第5艦隊司令官の指揮の下で作戦していたものが任務を終えてサンディエゴへ帰投するところであり、一方のセオドア・ルーズベルトはその交代のためにこの海域に入ってきたものであり、かねてから計画された行動です。
 朝鮮半島の情勢を睨んで、予定を若干変更して日本海で北朝鮮を牽制するために共同訓練などを行っているのであって、戦闘準備をしている訳ではありません。

私は軍事ジャーナリストではありませんし、当コラムも軍事問題を扱うコラムではありませんので、本件に関する言及は必要最小限に留めますが、北朝鮮の沈黙が意味するものは、一言で言えば、水面下での交渉が続いているということです。

この交渉の状況がどのようなものか、推測の域を出ませんが、北朝鮮がとうてい呑むことのできない条件ではないことは推測できます。
 ただし、いろいろな駆け引きが行われている場合には、何が引き金となって一挙に最悪の状態を惹起するか分かりませんので要注意です。

万が一、米朝開戦となった場合、米国には大義が必要です。
 米国の領土もしくは権益あるいは船舶・航空機、米国市民の生命に危険が及んだ場合、あるいは被害を生じた場合、それが米国の大義となります。
 しかし、米国が単独でその大義を掲げて武力を行使するのかどうか、その情勢にもよります。
 朝鮮戦争の休戦協定違反を持ち出し、休戦の破棄を口実とする可能性も否定できません。
 この場合、米朝戦争ではなく、国連軍と北朝鮮の戦いとなってしまいます。
 今のところ、米朝開戦の場合の枠組みについて論じている評論家等を見かけませんが、国際法上の整理としては、米国は単独で北朝鮮に戦いを挑むことは難しいかもしれません。
 なぜなら、国連軍との間に休戦協定がある地域で、その休戦協定の当事者と戦うということは、国連をないがしろにする行為だからです。
 もともと米国は国連の枠組みなど重要視していませんが、しかし、国際法上どのように整理するのかは難しいところです。

ところで、日本に国連軍司令部があるのをご存知でしょうか。
 歴史上、国連軍というのは一度しか編成されたことがありません。
 しかも国連憲章が規定する安全保障理事会が指揮する国連軍ではなく、米国が指揮する特殊な国連軍が朝鮮戦争に際して組織されました。
 この朝鮮戦争は休戦協定が結ばれ、現在はその休戦状態が続いていることは皆さまご承知のとおりです。

朝鮮戦争中の国連軍司令部は当時日本の占領を指揮していたGHQのあった東京に置かれていましたが、休戦協定締結後韓国に移りました。

一方、この休戦協定により日本は米、英、仏など10か国と国連軍地位協定を結び、その結果、座間に国連軍後方司令部が設置されました。
 この国連軍後方司令部は2007年に横田に移転しています。

休戦協定によれば、朝鮮半島から国連軍が撤退するまで設置され、国連軍撤退が完了した後90日以内に日本から撤退することになっています。

司令部と言っても、国連軍構成国の駐在武官団との連絡調整が主な任務であり、司令部要員は軍人が3名、軍属が1名にすぎません。

しかし、在日米軍基地のうち7か所が国連軍施設に指定されていることは知っておいて損はないでしょう。
 次の7か所です。
 1 キャンプ座間
 2 横須賀海軍基地
 3 佐世保海軍基地
 4 横田空軍基地
 5 嘉手納基地
 6 普天間基地
 7 ホワイト・ビーチ(沖縄県勝連)

これらの国連軍基地は、現在も必要に応じて国連軍参加各国により使用されています。艦船の入港は年10~20回程度、航空機も10回程度飛来しています。
 私もフランス海軍のフリゲートが国連軍の旗を掲げて航行しているのを見たことがあり、また日本に訓練のため国連軍の肩書で飛来したオーストラリアの哨戒機の搭乗員たちと飲んだことがあります。

つまり、日本には米軍だけではなく、国連軍も駐留しているのです。
 意外にご存じない方が多いのですが、横須賀や佐世保の基地に日の丸と星条旗とともに国連軍の旗が掲げられていることがあります。国連軍の旗は常時ではないようですが、何かの際に掲げるのでしょう。
 横田基地には常時掲揚されています。

米朝開戦の時、この国連軍司令部がどのような役割を果たすことになるのか興味のあるところです。
 先に米国は国連の枠組みなど重要視していないが、国際法上どのように整理するのかは難しいところと述べているのは、この朝鮮半島における国連軍の指揮を執っているのが在韓米軍の司令官だからです。
 一方で休戦状況にあるのに、おなじ戦場で休戦状況を無視して戦いを挑むことはいくら米軍でも矛盾です。
 しかし、休戦協定違反を持ち出して休戦状態を破棄して開戦するには安全保障理事会の決議を必要とします。

米国の立場はかなり難しいものになると思われます。

 

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