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商品リニューアル「良薬は“耳”に苦し」の法則

SPECIAL

商品リニューアルコンサルタント

株式会社りぼんコンサルティング

代表取締役 

商品リニューアルに特化した専門コンサルタント。「商品リニューアルこそ、中小企業にとって真の経営戦略である」という信念のもと、商品の「蘇らせ」「再活性化」「新展開」…など、事業戦略にまで高める独自の手法に、多くの経営者から注目を集める第一人者。常にマーケティング目線によって描きだされるリニューアル戦略は、ユニークかつ唯一無二の価値を提供することで定評。1969 年生まれ、日本大学芸術学部文芸学科卒。

リニューアルした試作品を顧客層へ商品テストした時、読み取るべき最重要ポイントは何か。それは「意味わかんない」といった否定的な声を素直につかまえることです。ネガティブな反応を分析し、研究し、そして改善する姿勢です。

わたくしたちはだれしもが「好き」「気に入った」「良かった」「買ってみたい」「つかってみたい」「シェアしたい」といった肯定的な声を無意識に、耳の奥で集め、耳の奥で感じて受け入れます。一方「?(首をかしげる)」「要らない」「買わない」「意味わかんない〜」といった否定的な生声に耳を傾けるのはとても苦手です。

こうした声に対しては「消費者が好き勝手に言っている」「好き嫌いで意見している」「論理的ではない」「思い込み、バイアスがかかっている」といった拒絶の反応が必ず出ます。たとえ否定的な声を受け入れたとしてもそれは表面的なリアクションであって、本質的には「反映させない」で突き進むことが多いのではないでしょうか。

わたくしたちは人間でありアニマルです。まさにご指摘の通り「論理的ではない」イキモノです。買い手は、作り手である企業がプロセス設計しているような合理性で買い物をしているわけではありません。むしろ真逆です。「パッと見」「インスタ映え」「デザインが好き」「価格が安い(高価)」「〇〇が持っている」「おまけが欲しい」等々の非合理性、行き当たりばったり、その場の直感や好き嫌いで買い物をすることがわかっています。

およそ四半世紀前、ちょうどバブルがはじけた直後のことです。社会人になって数ヶ月経った時、わたくしは会社が終わってから広告学校に通っていました。コピーライティングや企画で身を起てようと志していました。その学校では、時代を代表する現役コピーライターが講師でした。先生方の言葉はすべて実戦で磨きぬかれた本質の言葉でした。講師たちがくりかえし伝えたことのひとつに「人としての“ふつう”の感覚をつかめ」というものがありました。

“ふつう”とは何か。わたくしどもでは“人としての「ストライクゾーン」”と表現しています。わたくしちが有する「ふつう」の感覚は、時代性や外的環境によって変化しています。その時代の「ストライクゾーン」をつかむことが求められています。

商品サービスであふれた成熟期の今、わたくしたちは情報過多であり実体験もたくさん積んでいます。体験を通して、五感を通して、頭の中には「記憶」や「イメージ」が豊かにストックされています。例えば、食の雑誌があって「卵」特集を組んだ時、トップを飾る写真はどんな写真になるでしょうか。

「卵」特集の表紙。頭の中で描いた写真はどんなビジュアルだったでしょうか。目玉焼き、卵焼き、オムレツ、生卵、ニワトリ等、さまざまでしょう。記憶から「卵」といえば〇〇のイメージを引っ張り出して浮かんだ絵。この時に多くの人が描くビジュアルこそがストライクゾーンです。

お客さんが最も自然にナチュラルに描く記憶イメージを裏切らないこと。そして少しだけ裏切ること。この矛盾こそがリニューアルヒットの大事なポイントです。そして、ギャップが大きければ「意味わかんな〜い」と商品テストではじかれてしまいます。ギャップが受容できる範囲であれば「目新しさ」となってお客様はその商品に興味関心を抱きます。

商品テストをする前にあらかじめ「改善」という余白を組み込んでプロセス設計しておくことが重要です。顧客の「意味がわからない」の声はなすわち「わかりにくい」と言っているのです。「長所を盛りすぎない」「当てている顧客を絞り込む」「顧客層とコンセプトとビジュアル表現をフィットさせシンプル化する」といった調整が求められています。

今時代はシンプル化の方向です。例えば、今季の秋冬ファッショントレンドのひとつに「北欧デザイン」があります。誰もが知っているファッションブランドでは新作のコレクションに北欧デザインを取り入れています。ここ数年の北欧ブームは、わたくしたちが「シンプル」を求めていることを示唆しています。フィンランドやスウェーデンへ「無印良品」が進出するのも時代の流れを感じさせます。

わたくしたちの暮らしは時代の転換点で混沌としています。さまざまな社会システムが変わろうとしています。自社商品サービスと出会う場も、リアルな売り場から、マスメディア、ネット媒体、クチコミまでさまざま。商品サイクルの短命化と商品の多様化。人口減と高齢化でますますリアルの売り場やネット店舗から客足が遠のいてます。一方、矛盾するようですが、一人当たりの買い物活動の面積は広がり出会いのチャンスが過剰です。人に対してモノがあふれすぎている。買い物自体が「めんどう」となって「簡単に済ませたく」なる欲求が生まれます。

選ぶことがむずかしい、面倒くさい、わずらわしい。これが今のお客様の本音です。女性誌のタイトルでも「わずらわされずに暮らす」や「楽に〇〇する」というキーワードが目につきます。「シンプル化」と「わかりやすくする」ことが、今日においては「売れる条件」です。

翻って自社商品はどうでしょうか。

お客さんがパッと商品を見ただけで通り過ぎてしまったり、手に取ったものをそっと棚に戻してはいないでしょうか。まるで自社商品がそこに存在していないかのごとく無視された状態ではないでしょうか。お客さんの手は、足は、隣にある他社商品群へと伸びているのではないでしょうか。後ろの棚にある別ジャンルの商品をカゴの中に入れてはいないでしょうか。

商品テストの段階で「意味がわからな〜い」が引き出せたとしたら成功です。心の中で「ありがたい」と手を合わせなければなりません。お客様の反応を素直に受けとめることがヒットの第一歩となります。自社の、社長の、開発者の、担当の、“私”のこだわりを捨ててください。それらを手放し、徹底して生活者になりきってください。

「自分たちはプロだからお客様にはなれない」。そんな風にお考えでしょうか。それは商売という日々の競争において白旗をあげることではないか。常に顧客目線、顧客研究、顧客観察を通して商品サービスをリニューアルしている切磋琢磨の時代です。お客様の「意味わからない」といった声をどれだけ深掘りする仕組みと着眼があるか。耳で考えることが、顧客減の時代を勝ち抜く生命線です。

 

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