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終から発想する商品リニューアルの実務〜S社長への手紙〜

SPECIAL

商品リニューアルコンサルタント

株式会社りぼんコンサルティング

代表取締役 

商品リニューアルに特化した専門コンサルタント。「商品リニューアルこそ、中小企業にとって真の経営戦略である」という信念のもと、商品の「蘇らせ」「再活性化」「新展開」…など、事業戦略にまで高める独自の手法に、多くの経営者から注目を集める第一人者。常にマーケティング目線によって描きだされるリニューアル戦略は、ユニークかつ唯一無二の価値を提供することで定評。1969 年生まれ、日本大学芸術学部文芸学科卒。

S社長、メッセージありがとうございます。昨夜NHKで神奈川県平塚市の事例が紹介されていたとのこと、わたくしもその番組を拝見していました。例のリニューアル商品のパッケージデザインのアイデアですが、地元アーティストたちとのコラボレーションはユニークでいいですね。社長が直観されているように、今までとはまったく違う次元の商品に生まれ変わります。

その着想が、生活者であるアルバイトの方達とのオンライン座談会から生まれていることに価値があります。今までのような、“会社の都合”から生まれた企画とはまったく意味が異なる、重要なアクションです。最初に描いたビジョンの通り、社長の夢がひとつ実現しました。工程の通り、いまの時代を生きる生活者の生声を集めていきましょう。たのしみです。

さて地元アーティストのトレンド性についてです。教えてくださったテレビ番組だけでなく、例えば1115日の日経新聞日曜版でも「無限の可能性に出合う アール・ブリュットの魅力」という特集でとりあげられています。座談会でこの言葉は出てきませんでしたが、アール・ブリュットとはフランス語で、直訳すると「生(き)の芸術」。美術の専門教育を受けていない人が独自の発想・手法で生み出すアートのことを意味します。

日経新聞では「日本では障害者が主な担い手となる。東京パラリンピックを控えて関心が高まっており、ファッションなどへの活用も進む。伝統も流行も気にせず、ただつくりたいからつくられた作品は人の無限の可能性を示し、既存の価値観を揺さぶる」と紹介しています。コロナ禍、既成の価値観が壊れる今、ますます注目度が高まると確信しています。

1ヶ月前に、社長に同行してお会いした食品館バイヤー氏も、「福祉施設に売り上げの数%が寄付されるとか、コロナ禍に困窮しているひとり親家庭を応援する仕組みがあるとか、そういう応援消費が人気」という言葉が出ていました。こうした現場での出会いや生声がプロジェクトを刺激しました。従来通りのルーティンな営業活動では決して出会えなかったプロフェッショナルとの出会い、協業も仕組みのひとつとして動き出しています。

ふりかえれば、S社長との出会いは、2年前の弊社主催のセミナーに来てくださったことです。業界低迷による売上利益の減少、「人」の問題、さらには「のれん」をめぐってお身内でのトラブルがありました。いくつもの重い課題を抱えておられました。

社長は開口一番、「ヒット商品を出して一発逆転したい!! 」とおっしゃって、執念の新商品をセミナー会場に持ち込まれました。社長は、その商品の「ネーミング」に行き詰まっておられていたんです。インターネットで検索し、このコラムを見つけ、セミナーにいらっしゃいました。迷いなく「ネーミングを変えるだけ、それだけで大ヒットする! ネーミングだけ考えて欲しい!」と大胆におっしゃいました。もちろん、ネーミングの重要性は当たり前のこととしてお伝えしながら、「ネーミングだけでは絶対に売れない。ひとっ飛びでのヒットはない! 」と、真逆のことをお伝えしました。社長は口をとがらせました。

月日が経ち、コロナ禍の春にご連絡をいただきました。人の問題、身内のトラブル、そしてパンデミック。在宅勤務が当たり前になり、人の往来が激減しました。「人」や「のれん」の大問題も休戦。ペンディングになったことが幸いでした。S社長に考える時間が生まれました。「時間ができたことで、心がおちつきました。開き直れました」とおっしゃるオンライン面談での言葉が心にのこっています。

そこからが疾い。少しずつ社員に向き合い、家族や身内に向き合い、会話が始まりました。一筋縄ではいかないこと、理屈通りにはいかないことは百も承知の上、社長ご自身から「変わりたい」とおっしゃって、会話が対話になっていきました。身内のゴタゴタで、会社の屋台骨である商品サービス、お客様との関係づくりを失念していたことに気づきました。

次のオンラインでの面談で「わたしはひきこもりの経営者、だったのかもしれません」とおっしゃっていました。「鳥は自ら飛び立とうとするときに自ずから風が吹く」という本の言葉を引用して「会社はみずからの力だけでは、飛躍できない」と、オファーをいただきました。

そして、コンサルティングも終盤です。コロナ禍をきっかけに、大きなパラダイムが変わっている渦中にいることを実感する日々です。第二波、第三波といった曖昧な定義で、生活者の不安が増大しています。しかし、禍転じて何とかです。「ネガティブバイアス」を活用し、不安を大きく伝えているマスコミの手法もビジネスをする上で参考になりました。社長は「情報に右往左往してはいけない」と気づかれました。コロナ禍の会社の課題、ご自身の悩みを考え方にまで昇華され、いよいよ「生活者の新しい不安と向き合う」「時代の課題をビジネスで解決する」と、高らかに宣言されました。

この半年で、ビジョンという羅針盤づくり、プロジェクトチームの立ちあげ、時代に合わせる考え方と実装、世界観の作り方、表現の仕方(S社長がセミナーで求められたネーミングも一つの要素)、欲しがっている生活者とのつなげ方、こうしたステップを自社用にカスタマイズした仕組みができあがっています。

商品リニューアルの極意は「水は方円(ほうえん)に従う」という考え方です。丸い容器に水を注げば、容器の形に従って丸くなります。四角い容器に注げば四角い形に。水はどんな形の容器にも逆らわない。商品サービスも、水のように、あらゆることに対して順応し、リニューアルする。そうした柔軟性を、強く意識し、商品企画チームを作り上げて仕組みを回していくことです。

そして時には氷のように固くなる。ここだけはという「信念」を頑なに固持して、妥協しない強さがS社長には求められています。理念や思いに従って、前進することが求められています。プロジェクトをスタートするにあたり、社員の前で自らコミットした、ビジョンブックに書かれているはずです。自社にとって成功とは何か。なぜ、成功が大切なのか。そして、何のために自社があるのか。何を使命として存在するのか。S社長の原点が、書かれています。

時は遡り1895年のことです。T型フォードが誕生し、街には自動車が走るようになりました。それまでの交通手段だった馬車ですが、「馬」たちは車を見て恐怖に震え、しゃがんでしまったそうです。ゆえに馬車と車は共存することができなかった。危険だったゆえに馬が道を走ることが禁止されたのです。ひるがえって、まだまだ古いシステムにしがみついていないでしょうか。生殺与奪の権を他者に握られてはいないでしょうか。常に点検していきましょう。

社長、「馬車」の死を想いましょう。馬車と同じように、これまでにたくさんの産業が衰退しました。産業の死があって、わたしたちはいま生きています。そしてS社長は、生きることへの希望の火を灯しました。いま生きている全世界の人たちと、いま生きている世界中の企業と、時間をシェアしています。小さな一歩のように見えるひとつひとつの工程が、後から考えれば実は大きな一歩なのです。自信をもって進んでください。S社長の目の前には、扉が開かれています。いつだって、扉は、開いています。水のように考え、水滴がごとく極め、滝のように清々しく、自社の内側から変わり続け、今を生きる生活者にあたらしい喜びを提供していきましょう!

 

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