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Vol.3:「節税よりも大切なこと」とは?

SPECIAL

「信託」活用コンサルタント

株式会社日本トラストコンサルティング

代表取締役 

オーナー社長を対象に、「信託」を活用した事業承継や財産保全、さまざまな金融的打ち手を指南する専門家。経営的な意向と社長個人の意向をくみ取り、信託ならではの手法を駆使して安心と安全の体制をさずけてくれる…と定評。

先日、旧知のA社長と雑談していたときのことです。「信託すると節税になるのか?」と、直球のご質問を頂きました。よく聞かれる質問です。この質問の回答は、簡単でもあり、難しくもあります。信託の使い方により、結論が変わるからです。

一般論として、財産を信託しただけでは、節税にはなりません。ただし、いくつかの例外があります。例えば、教育贈与信託のような税制上の優遇措置が認められている金融商品があります。ご利用されている方も多いかと思いますが、祖父母(委託者)が、孫(受益者)のために、教育資金を贈与して、その贈与資金を信託銀行(受託者)で管理する仕組みです。

当初は信託銀行だけに認められていたものでしたが、他の金融機関でも取り扱うようになっています。あまり知られていないのですが、教育贈与信託以外にも、税制上の優遇措置が認められている信託商品があります。このような税制上の優遇措置が認められた信託商品を購入すれば、信託をしたから節税になった、と言えます。

上記以外でも、信託を用いたことで結果的に節税になるケースはあります。相続税を計算する評価規定を活用する場合などが代表例ですが、その利用方法については、専門家の間でも議論があるところです。一般的に、信託を活用する目的は、資産形成や運用、資産管理や承継、公益のために活用するものですので、信託をして節税になるのは結果、ということになります。

近年よく利用される信託の仕組みとしては、アパートなどの収益不動産を高齢の親に代わり、子が管理するために、使われることがあります。親が所有するアパートを子に信託して、管理を任せるというのが、代表的な事例です。

信託では、財産を預ける人を委託者といいます。委託者から財産の管理、運用を委託された人を受託者といいます。財産から生じる収益を受取る人は受益者といいます。信託は基本的にこの三者関係で構成されます。

アパート経営を任せる親は、委託者兼受益者となります。子供は受託者として、アパートを管理、運営することになります。高齢の親が事故や病気、認知症などで管理ができなくなってしまうと、修繕も管理もできなくなるため、子供を受託者として、信託をします。

さらに、親が死亡したときには、そのアパートを管理している子供に、そのまま承継させることを信託契約の中で決めておくことが出来ます。受託者であった子供がそのまま財産の所有者となるので、一つの信託契約で財産の管理と承継ができことは、他の法制度にないメリットです。

信託する目的は、第一に、委託者の財産であるアパートを、受託者が管理することにより、不動産収入を委託者の生活費等に充当すること、となります。第二に、親が死亡した場合には、次の受益者に資産の承継の承継をすることです。

これらの信託の目的を達成したうえで、さらに親が死亡した際の相続税の計算をする時に、財産の評価額が自用地として持つよりも低くなるというのは、結果です。信託を活用することにより、結果的に節税も実現したことになります。

大切なことは、アパート経営という事業を、親が元気なうちに後継者である子供に任せておくことで、引継ぎ期間を十分にとれるということと、親の相続時に円滑に資産承継がすすむことです。

もし、後継者が不動産事業になれていないとすれば、事業の運営上必要なことに加えて、確定申告準備など、覚えるべきことはたくさんあります。そのための引き継ぎ期間は、長ければ長いほど、有利です。これは、通常の会社についても同様です。

オーナー会社においても、信託という仕組みは、有効に活用することができます。それも、オーナー社長自身が元気な時だけでなく、自分の次の世代、そのまた次の世代に、自ら築いた事業と共に、自分の思いを伝える仕組みを作ることができます。

古い話ではありますが、十字軍の騎士たちは国外の戦地に赴くにあたり、自らの財産を信頼する者に預ける仕組みとして、信託の原型となる仕組みを利用したそうです。その仕組みが米国に伝わり、資本主義を支える制度の一つである信託(trust)として発展した歴史があります。

直近でも、アウトドアメーカーのパタゴニア社の創業者は、保有する株式を公開せず、議決権株式を「Patagonia Purpose Trust」に譲渡したとの報道がありました。その目的は2つあるようです。

一つは、会社の目的とバリューを大切に継続していくためのより永久的な法的基盤を形成するためです。もう一つは、「営利企業として資本主義が地球の役に立つことを証明する」という、創業者の志から決して逸脱しないようにするため、と説明されています。

信託の面白いところは、委託者である自分が死亡した後も、未来をコントロールできるところです。財産をどのように活用して、その財産を誰が管理して、誰に承継させていくか、ということを、財産の所有者が決めておけるのです。

信託は、本来はとても便利で面白い仕組みなのに、その存在、使い方を知られていないがゆえに、あまり使われていません。そうであればこそ、オーナー社長の皆様にその使い方を知っていただきたいと思います。

節税よりも大切なことは、信託という仕組みを通じて、オーナー社長の思いを次の世代、そのまた次の世代に伝えていくことではないかと思うのです。

を伝えようとしたときに、信託という仕組みを選択肢の一つに加えることを、オーナー社長の皆様にご提案させて頂きます。

 

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