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イエの名残と企業経営

SPECIAL

「信託」活用コンサルタント

株式会社日本トラストコンサルティング

代表取締役 

オーナー社長を対象に、「信託」を活用した事業承継や財産保全、さまざまな金融的打ち手を指南する専門家。経営的な意向と社長個人の意向をくみ取り、信託ならではの手法を駆使して安心と安全の体制をさずけてくれる…と定評。

「やっと話がまとまったよ。」旧知のEさん。仲の良い兄弟3人でしたが、思わぬところですれ違いが発生して右往左往です。兄弟の話し合いもひと段落して、自分のビジネスに集中できるようになりました。

1.兄弟の話し合い

Eさんの父親は貿易会社の経営者でした。Eさんと弟はバブル期前後の就職活動でしたので、景気の良かった金融機関に就職します。その後、山一ショックなどの金融危機で再編が相次いだこともあり、一時は父親の家業を継ぐか相談していたそうです。

結論を出す前に父親が急逝。兄弟ともに金融機関に勤めのまま、一時的に母親を代表者として会社を承継しますが、最終的に第三者に会社を譲渡。母親は収益不動産を購入し、不動産賃貸業に専念していました。

コロナ禍の最中に、母親が入院することとなり、事態は一変。その後も、母親の体調が回復しないまま相続が発生します。相続知識のある兄弟で遺産分割協議をするという展開です。

Eさんの母親が保有する不動産は、自宅、収益不動産、駐車場の3つのほか、預貯金、生命保険など。「共有を避けてなるべく均等に分割」というのは容易いのですが、実際にやるとなると実に難しいのです。

遺産分割協議の実務でありがちなのが、相続税評価額だけで分割を考えてしまうことです。税金も大事ですが、単なる評価額なので価値を示しているわけではありません。時価が大事なのは勿論ですが、時価とて一つではありません。

税金面で厄介なことの一つに、取得する人が変わると相続税評価額が変わるという点も注意が必要です。特に、優遇措置を適用できると評価額が大きく下がりますので、結果として適用を受けるととの出来た相続人の税額も変わります。

加入していた保険も受取人を兄弟で1/2ずつ受け取るようにはなっていません。何か一つのことが気にかかると、あれもこれもと気にかかり、気になるポイントが増えていきます。でも何より問題なのは、兄弟間のコミュニケーションなのです。

父親の相続ではEさん兄弟がマイホームの購入資金分を相続して、残りは母親でおしまいでした。今回は母親という仲裁者も、遺言書のような指針もなくガチの話し合いですから、一つかけ間違えるとエライことになります。

結果は、エライことの一歩手前で回避できました。

2.長男としての意識

ご存知のとおり、相続について民法という法律があります。法定相続分だから兄弟で1/2ずつと簡単なのですが、そうは簡単にいきません。不動産の管理をしたり、母親の介護をサポートしたりと大忙しだったのはEさん一家です。

民法という法律も面白いもので、法定相続分を決めている一方で、いろいろ事情があるなら公平に分割することを示す規定(906条)もあります。そうは言っても具体的に定められているわけでもないので、結局のところ法定相続分に落ち着くことになります。

長男のEさん一家が介護だ、喪主だ、と頑張ってきて、奥様にかけた負担もそれなりでしたから、きっかり半分ずつというのに奥様も納得はいきません。「長男だから」という点に、今も「家意識」というものが微妙に残っているのを感じます。

明治の民法で認められていた「家長」とか「家制度」が、昭和の民法で改正されて無くなったはずなのに、令和になった今でも社会には何となく存在しています。「家長(家父長)制」とは、戸主が同じ戸籍に入るものを統率する仕組みです。相続時に昔の戸籍を見ると確かに「戸主」という欄があります。

家という組織の中にあった「家長」というオーナー制度がなくなっても、「家長」であった人はそのまま存在するために、家に属していた人には意識や感覚が残ります。しかし、社会の構造が核家族化、さらには単身世帯化していくので、世代によって家、兄弟の感覚が違うのは当然のことです。

この社会に微妙に残る「家意識」が会社経営にどう影響を与えるのでしょうか。代表的なものは、ジェネレーションギャップと言われる世代間のコミュニケーションの問題です。さらに大事なのはオーナー一族の中の「家意識」に対する感覚の違いです。

3.企業経営との関係

一般的に同族企業(ファミリービジネス)は「家制度における家長」と同様に、オーナー社長を頂点とするピラミッド組織です。ファミリービジネスの中心にオーナー経営者がいる限り、その組織は中心への求心力が働きます。

ファミリービジネスの最大の危機は事業承継時のタイミングと言われますが当然のことです。ファミリービジネスを構成する3つの組織(「ファミリー(一族)」、「オーナーシップ(株主)」、「ビジネス(経営)」)の中心が欠けることになるからです。

ファミリービジネスは駅伝と言われますが、経営者交代には並走区間(期間)が必要であり、その期間は3〜10年かかります。ただ時間をかけるのではなく、共通の言語、共通の認識が必要ではないでしょうか。

同族企業を構成するファミリーという組織を、「家制度」に変わるマネジメントの仕組みを導入することは検討に値します。経営者だけでなく、ファミリーとしての共通言語を持つことができるからです。

上場企業のお家騒動を見ても、原因となった一因に「家制度」の影響を見てとれることがあります。親子、兄弟の間で発生する問題が多いのですが、対立の結果、他の企業に吸収される事例は少なくありません。

歴史は王様が統治する時代から民主主義に流れてきたように、経営者の交代のタイミングではチーム型の経営に移行するのが良いでしょう。

【まとめ】

Eさんの分割協議は基本的に1/2の相続でした。共有は好ましい状態ではないので、不動産は全て売却しました。長男だから自宅は引き継ぐと思っていただけに、自分が育った家を売却するというのは帰る場所を失ったようで寂しい、ということでした。

同族企業(ファミリービジネス)では家族対策を事前に進めておくことは大切です。

できれば、オーナー経営者の皆様には、万が一に備え、自分の意志(Will)を遺言(Will)という形で残しておくことをオススメします。

 

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