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手放さずに任せるという選択

SPECIAL

「信託」活用コンサルタント

株式会社日本トラストコンサルティング

代表取締役 

オーナー社長を対象に、「信託」を活用した事業承継や財産保全、さまざまな金融的打ち手を指南する専門家。経営的な意向と社長個人の意向をくみ取り、信託ならではの手法を駆使して安心と安全の体制をさずけてくれる…と定評。

「初の非創業家に任せる覚悟」という雑誌記事の見出しに目が止まりました。創業から300年以上続く老舗の中川政七商店の14代目の社長に、中途入社の女性社員を登用したという内容です。
 
 
1.創業家の立ち位置
 
本年4月の日経ビジネス電子版の記事ですが、年商12億円から57億円に成長させた創業家出身の13代目が代表取締役になり、後継者である14代目が社長に就任。交代したのは2018年ですが、共に40代と若い世代での交代でした。
 
後継者に求めていた能力は、人望、コミュニケーション能力、バランス感覚。13代目のトップダウン型の経営から、14代目のチーム型の経営に切り替えるための助走期間は1年間です。
 
14代目に経営者として「覚悟を持った決断」を促し、今やチームワークで回る会社に変貌。13代目の発言は「社長であっても、経営者ではない」「45歳で引退する」などユニークです。
 
伝統的に「イエ」意識の強い我が国では、創業者一族が経営に関わることを良しとする傾向があります。しかし、帝国データバンクの調査によれば、日本の事業承継の現状は親族以外に承継する割合が約6割です。
 
中川政七商店に関する一連の記事からは明確には分かりませんが、経営面では14代目に移行していても、財産面(自社株式)は渡していないのではないか、と推測されます。つまり、所有と経営が分離した状態です。
 
もっとも、13代目は代表取締役会長ですから、経営から完全に離れたわけではありません。何かがあれば戻れるポジションにいるというのが大切なように思えます。


 
 
2.所有と経営の分離
 
同族会社は、同族経営と同族所有に分けられます。同族経営は創業家出身者が会社の経営を担う場合です。同族所有とは創業家一族が株式を保有するものの、会社経営には関与しない場合です。
 
欧米では所有と経営の分離した同族所有が珍しくありません。相続により創業家一族の中に株式が分散をしていても、ファミリーオフィスなどこれらをコントロールするための仕組みを持つことで対応します。
 
プジョー(フランス)、BMW(ドイツ)、フォード(アメリカ)など欧米のファミリービジネスの創業家一族は株式の持株割合を維持する同族保有です。直接的に経営はしないまでも、経営者の決定には強い影響力をもちます。
 
所有と経営が分離しているため、オーナー(創業家、株主保有サイド)が経営陣(取締役会)をコントロールする必要があります。このため、欧米では企業統治(コーポレートガバナンス)の仕組みが発達しました。
 
企業統治の方法も、英米型と欧州型の2つのタイプがあるのが興味深いところです。日本でも2015年に上場会社を対象にコーポレートガバナンスコードが制定されました。日本の場合、「イエ(家)」「世間」「お天道様」「恥」などの文化的要因が企業の行動を規制していたという考え方がありますが、感覚的に納得できます。
 
なお、日本のトヨタにおける豊田家、スズキにおける鈴木家の持株比率は低いが経営に関与しています。日本の同族会社の特徴として、保有による影響力は無くなっていても、創業家一族の者が経営陣に加わる同族経営を志向することに特徴があります。
 
 
3.自社株式を手放さないという選択
 
信託銀行の実務において、株式を上場(公開)した創業家一族の保有する株式(有価証券)を信託で管理することがあります。有価証券管理信託と言いますが、上場した株式を信託銀行に信託として預ける仕組みです。
 
例えば、創業者であるオーナー社長が一代で株式を上場させた後、創業家の相続が発生して経営に関与しない家族が株式を取得したとします。創業者一族として売却するのには抵抗がある場合、経営に関与しなくても、そのまま保有することになります。
 
上場株式を大量に保有する場合、株主は様々な開示義務をおいます。かつては、所定の報告書に氏名や自宅住所が開示されていました。今では、市区町村までの開示に変わっていますが、気分の良いものではありません。
 
このような場合、同業家の一員である相続人が相続した上場株式を信託すると名義が創業者一族の名義から、信託銀行名義にかわりますので、個人情報の開示や管理の負担が減らせるのです。
 
これからも中堅・中小企業でも所有と経営が分離することが増えると予想されます。経営者とすれば、事業を続けたい意欲もありますし、子供が継がなくても孫が継ぐかもしれないという期待もあります。
 
M&Aの場合、従業員に対する配慮もあれば、手続きに伴う煩わしさや喪失感といった感情の問題あります。であれば、共に働いてきた人に経営を託して、株式そのものは家族に渡したいという選択肢を検討することになります。
 
同族所有という形態は、経営は第三者に任せるけれども、株式は創業家で保有することになりますので、経営者と株主との関係性が非常に重要になります。信頼関係も大事ですが、やはり、ガバナンスの視点が重要です。
 
親族に事業承継するのではなく、M&Aとして完全に売却するのではなく、第三者に事業承継をするという選択肢を試してみるのは有力な選択肢です。その点、中山政七商店の13代目は慧眼であるといえます。
 
大リーグでいえば、オーナーとGM(ゼネラルマネージャー)と監督の役割分担のようなものでしょうか。
 
 
まとめ
 
親族に事業承継するのでなく、M&Aでもない、自社株を手放さずに経営を任せるという選択肢もあります。後継者の育成には3年程度かかります。様々な選択肢を検討しておくことが、悔いを残さないコツではないでしょうか。

 

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