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消えゆく「高架下」と、増え続ける「マンション」

SPECIAL

住宅・工務店コンサルタント

株式会社 家づくりの玉手箱

代表取締役 

住宅・工務店コンサルタント 。規格住宅を高付加価値化させ、選ばれる工務店となる独自の展開手法「シンボルハウス戦略」を指導する第一人者。
営業マンとして自分が欲しいと思わない住まいをお客様にお勧めする仕事に疑問を持ち、ある工務店でどうしても家を建てたくて転職、鹿児島へ 。15年間で173棟の住まいづくりをすまい手目線で担当。そこから編み出された、選ばれる工務店となる具体戦略を、悩める中小住宅会社ごとに実務指導中。

無くなりかけていた「モトコー」

 

大阪方面に出向いた際に、古巣の神戸に寄ってみました。私にとっては懐かしい場所です。大学を卒業してすぐにひとり暮らしを始めた地であり、会社も三宮にありましたので当時ふだんは殆どこの界隈に居たからです。

お目当ては、中古レコードでした。最近、アナログレコードが若い人の中でも人気のようです。リマスター版の再発売も増えてきましたし、新譜のアナログレコードでの発売も復活しています。元々レンタルレコード世代なのでプレーヤーは持ってますし、やっぱりあのでかいジャケットも魅力です。

高校・大学生の頃は、毎週レコードを10枚借りてはカセットテープにダビングしていました。確かその借り方が最もコスパが良かったのだと思います。友達の分もついでにやってあげたりしていましたので、週に15〜20本はカセットテープを買っていました。

神戸市の三宮・元町界隈には当時から中古レコードのお店がたくさんありました。行きつけのお店がJRの元町駅から始まる高架下にあったので、久しぶりに尋ねてみたのです。そこは通称「モトコー」と呼ばれる高架下商店街で、ディープな空間です。元々は闇市だったそうで、小さいけど超マニアックなお店が神戸駅まで1kmほども軒を連ねています。鉄道高架下では日本一の長さです。

勝手知ったる場所ですから、たいしてリサーチもせず突入してみてフリーズしてしまいました。入口の見慣れた紳士服屋さんのところから入った途端、シャッター街になっているではありませんか。ここをうろうろしていた頃からは、かれこれ30年以上経っていますが、まさかの景色に唖然です。

 

↑神戸、元町駅から始まる「モトコー」入口(最初のお店が見えています)

 

↑最初のお店は紳士服屋さんでした

 

↑ガーン。その先はいきなりシャッター街でした

 

 

その場で調べてみると、立ち退きになってしまったようです。7年前の神戸新聞の記事で「借地権奪われる」「損害は数千万円」 モトコー立ち退き問題で、JR西が2度目の説明会 というのが出てきました。どうやらかなり揉めていた感じです。

高架橋の耐震補強工事のためという名目で、JR西日本が立ち退きを求め借地人や商店主を対象に説明会を何度か開き再整備計画案を示していたのに、高架橋が国の耐震基準を満たしていることが判明、紛糾していたとのこと。現在は借地契約は打ち切られているが、一部のお店が営業を続けているといった状態のようでした。

しばし立ちすくみながらも調べものを終え、気を取り直して中古レコード屋さんがあった場所まで行ってみることにしました。行きつけの中古レコードお店はここ「モトコー」には2軒ありました。「モトコー」は東側の元町駅から西側の神戸駅に向かって1番街から7番街まであります。1軒は1番街にあり、あともう少し先です。

 

 

↑おおっ。お目当て1軒目は移転していました。わりと近所です

 

 

お目当て1軒目の「ワイルドハニーパイ」さんは移転していましたが、わりと近所なので後でそっちにも行ってみることにしました。2軒目は2番街です。そのまま前進していきます。

 

 

↑2番街に進みます(こちらもシャッターが延々続いています)

 

↑寂しくなった店舗案内図(お目当て2軒目はまだやってそうです!)

 

↑「ダイナマイトさん」やってました!(楽器もあってカオスな店です)

 

 

お目当て2軒目の「ダイナマイトさん」さんは、借地契約打ち切りにもめげず元の場所でガンバっていました。中古レコード屋さんですが、ビデオテープや中古のギターもたくさんあってカオス感がすごい店です。

アナログレコードをしばし物色してから、先ほど投げやりな移転の張り紙があったお目当て1軒目の「ワイルドハニーパイ」さんの移転先へ向かいました。怖いもの見たさで、ついでに3番街経由で移動してみたら、3番街は既にリニューアルオープンしていました。

 

 

↑リニューアルされた3番街(普通の地下街みたいでそそられません)

 

 

3番街には用事はありませんので、中古レコードを目指し高架下を離れて海の方向へ降りていきます。シャッターに貼られていた地図の場所は、線路と並行に続く大きなアーケードのある商店街を越えた賑やかな場所です。そこに向かいます。

たどりついてみると「ワイルドハニーパイ」さん移転先でやっていました!以前よりもひとまわり広めの店内には人影はなく、引っ越してきたままの段ボールが並んでいます。しゃがまないと見れない箱もいっぱいあります。他にお客はいないのかと思いきや、数人がしゃがんでいました。シュールです(笑)このお店の作法のようです。まさに混沌としていますが、探しにくいところに掘り出し物がありそうな気がしてくるのです。これが。

 

 

↑お店は立派になりましたが、商店街のはずれなので人通りは少なめです。

 

↑アルファベットが足元の箱へ続いていましたので、地べたの箱も単なるストック用ということではありません。

 

 

 

「マンション」もこうなるのか?

 

久しぶりの神戸では、そんなこんなで時間の流れを感じさせられました。地元のみんなは、今ごろ何言ってんの?という感じかもしれませんが、長らく離れていると変化に戸惑うことしきりです。掘り出しものも何枚かゲットしましたし、馴染みのお店は意外と元気でしたから安心して帰路につきました。

「ワイルドハニーパイ」さんの新店舗近くには中華街があり細い通りが多いのですが、いきなりタワーマンションが建っていました。そのあたりにはちょっと似合わない、新築まもないピカピカのマンションです。そのマンションが「モトコー」と重なるのです。今は真新しいマンションも数十年したら「モトコー」のようになるかもしれないと思ったのです。

現にリゾートマンションの中には、限りなく値下がりして数十万円でも売れない物件が全国的に増えているそうです。中には「タダでもいいから所有権をもらって欲しい」というようなのもあると聞いています。利用価値のなくなった物件でも管理費や修繕積立金の支払い義務があるからです。

マンションは、中古価格の下落→売却時に残債回収が困難→管理費・修繕積立金の滞納→管理組合の資金繰り悪化→管理状態の悪化→さらなる中古価格の下落というようにスパイラル状にスラム化していくケースが多いようです。リゾートマンションなど実際の需要が急減した物件では早いスピードでそのような状況が顕在化するのだそうです。

 

 

↑「モトコー」を見てからは、どうも「大きなマンション」が重なってしまいます

 

 

 

やはり「時は金なり」

 

昔から「10年ひと昔」といいます。最近では10年と言わず2〜3年でもひと昔のように感じる分野もあります。いっぽう10年経って景色が変わっても変わらないロジックのようなものもあります。今回の「モトコー」のような古くからの既得権を排除しようとする動きは鎌倉の海岸でも発生しているようです。こちらは様々な映画などのロケ地で有名なカフェレストランのようで、話題になっています。やはり、鎌倉市に賃料を支払っている物件で、建物の耐震性不足を名目としているようです。

「モトコー」と「マンション」が重なったのは「モトコー」の寂しくなった店舗案内図を見た時で、「マンション」末期のまばらな居住状況と重なったのです。複数の関係者が集合している点では「モトコー」も「マンション」も共通しています。そういった関係が解消される場合でも利害者の事情はそれぞれであり、タイミングがずれて最後は「櫛の歯が欠けたよう」になっていくのです。

「モトコー」と「マンション」は関係を規定する契約内容や関連法律は違っていますが、末期の姿は似通っています。また、時間をかけても耐えられるものが、交渉上でも強いという原則も一致しています。「モトコー」の場合の借地権にかかわる法律は古くからあるものです。判例なども多数ある分野です。しかし「マンション」関連の法律は日本国内では歴史が浅く、社会的に経験則が不足しています。

普通借地権(旧借地権※)は徐々に契約関係が減少傾向かと思われますが、区分所有法※に規定されるマンション物件は増え続けています。しかも全物件の老朽化は毎年毎年確実に進行しています。様々なケースの想定が不完全と言われる区分所有法は、今後度々改正されると思われます。そこには、大きな事業機会と税収の可能性が関わっている点からも、ほぼ間違いないでしょう。

 

※普通借地権(旧借地権): 普通借地権とは、1992年(平成4年)8月1日に施行された改正「借地借家法」で新設された借地権の1つ。
借地権の存続期間を当初30年、1回目の更新では20年、2回目以降は10年とし、賃貸借契約の期限がきても、地主の側に土地を返してもらう正当の事由がなければ、借地人が望む限り借地契約は更新される。また、契約終了時に借地人が建てた建物が残っているときは、地主に建物の買い取りを請求することもできる。これに対し、契約期間に定めがあり契約更新のないものを「定期借地権」という。また、1992年7月以前に契約した借地権は「旧借地権」といい、借地期間が満了しても地主側に正当事由がない限り借地権が更新されるという旧法が適用される。

 

※区分所有法 : 分譲マンションなどの区分所有建物に関する権利関係や管理運営について定めた法律。正式名称は「建物の区分所有等に関する法律」。「マンション法」と呼ばれることもある。1962(昭和37)年に民法の特別法として区分所有法が制定された。

 

 

 

社長の会社はどのくらいの業歴でしょうか。昔を懐かしんでいても始まりませんが、振り返ってみて「変わったもの」の中から「変わらないもの」を探って見つけておられますか?

 

 

 

 

 

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