協業が拓くサーキュラーエコノミーの新しい道筋
「西田さん、良い機会をアレンジ頂き、今回は本当にありがとうございました。」パートナー候補の企業幹部との面談を終えて、東京への帰途に就くときに同行した社長さんからかけられた言葉です。予約した電車が違っていたため、声を掛けられたのは駅のアナウンスがうるさい新幹線の改札口で別れたときだったのですが、まだ海のモノとも山のモノともつかない段階ではありますが、異業種異分野の、しかも初対面の社長と、あるべき姿や理想についての概念を共有できたことは大きかったと思っています。
資源やモノの価値を経済全体で循環させようと考えたとき、どんな分野であっても1社単独ではそれが手に余る話であることは明白です。廃棄物の再生ひとつをとってみても、収集・運搬から中間処理・選別を経て、再資源化から製品化へと至るまで、それぞれの段階を担うのは別々の会社です。ある1社が循環性の向上を目指して努力したとしても、他の会社が追随してくれなければ、結局どこかで無駄やロスが生まれることに変わりはありません。
さらに、選別後の行き先によっても対応する会社は異なります。解体現場から出る中古家具であれば中古家具店へ、壁材や鉄骨であれば解体業者を経由してリサイクル業者へ。それぞれ異なるプレーヤーが関わることになるのです。つまり、現実のリサイクルの仕組みは、多様な業者の自然発生的なつながりによって成り立ってきたと言えます。
これまで当たり前のように繰り返されてきたこの仕組みは、決して効率性や収益性を追求した結果ではありません。むしろ必要に迫られて成立した関係性であり、循環の効率性を向上させることによる収益改善を目的としたものではなかったのです。そこには、まだ大きな伸びしろが残されています。
今回私どもが取り組んでいるのは、まさにこの点を再度見直すことです。循環する価値を最大化し、それに応じて適切に配分していく仕組みを考え直そうというものです。もちろん、努力に応じた利益配分の考え方など、先行きには難しい課題が控えています。しかし、「まずは取り組んでみようではないか」という問いかけに賛同してくれる仲間が現れれば、そこから新しい協業の道が拓けるのではないでしょうか。今回の面談も、まさにそのような思いに共感してくれた二つの企業をお引き合わせしたものでした。
このような取り組みは、一歩間違えれば「藪から棒な提案」に聞こえてしまう恐れもあります。しかし幸いなことに、二人の社長は真摯に耳を傾けてくださり、活発な意見交換が行われました。この場を借りて、改めて感謝の意を表したいと思います。
とりあえず初期的な意見交換は成功裏に終わり、継続的な検討を行うことが合意されました。翌朝には社長同士でメールのやり取りが交わされ、早速の進展を予感させるスタートとなりました。もちろん、今後の道のりは平坦ではありません。両者がどの分野で協力し、どのように業務を分担し、その利益をどう分け合うのか、具体的に決まっていないことは山ほど残っています。
だからこそ、コンサルタントとしての役割は重要です。伴走する立場として、都度フェアな考え方を提示し、協業のあり方をともに模索していく。ときには異なる利害の調整役となり、ときには未来志向のビジョンを描くガイド役となる。こうした関わりを通じて、企業同士がサステナブルな関係性を築いていくことが、循環経済を現実のものにしていく道筋だと考えています。
サーキュラーエコノミーは、一社単独の取り組みでは決して実現できません。価値の循環は、多様な企業が手を取り合い、それぞれの強みを持ち寄ることで初めて本格的に動き出します。そして、そのつながりを「効率」と「公正」の視点で組み直すことができれば、社会的にも経済的にも持続可能な成果が生まれるのです。
私が強調したいのは、そこに眠るのは「社会的な使命」だけでなく「新しいビジネスチャンス」でもあるという点です。これまで部分的にしか活かされてこなかった資源の価値が、循環の仕組みを通じて再び市場に流れ込むとき、そこには必ず新たな需要が生まれます。その需要をつかみ、次の成長につなげていくことこそが、サーキュラーエコノミーの実践的な魅力なのです。
今回の出会いは、まだ始まったばかりです。理想の共有から具体的な協業へと歩を進めるプロセスは決して容易ではありませんが、ここにこそ未来を変える芽があると信じています。
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