なぜ仕事は属人化するのかーーその弊害と解決方法

「専門家だと思って任せていたら、自分の思惑とは全然違う方向に仕事が進んでいて驚いた」――先日お会いした経営者がぼそっと言われた言葉です。ある業務に詳しい人を雇い仕事を任せていたものの、進め方が外からは全く見えず、どんな判断で進行しているのかも共有されていなかった。ふと気になって様子を聞いてみたら、想像とはまったく別方向に進んでいたというのです。

これはまさに仕事が属人化した状態の典型例です。仕事が当人だけの“見えない世界”で進んでしまい、周囲は関われず、気づいた時には軌道修正すら難しくなっている。属人化が起きると、こうした小さなズレが、後になって大きな問題となって表面化します。

経営者やマネージャーが自分の仕事を抱えていて多忙であったり、「ホウレンソウ」の習慣が根づいていない組織では、よく起こります。

仕事が属人化してしまうと他からは見えなくなり、当人が困っていても誰も助けられません。さらに悪い場合は、上の意志とは正反対の方向に物事が進んでしまい、結果として大きな時間のロスが生じてしまいます。

属人化は、その人の性格や能力の問題ではありません。本質的には、“プロセスが見える化されていない”という構造の問題です。

特定の人にとっては当たり前すぎる作業でも、他人から見れば中身はブラックボックス。だから共有しようにも言語化するのが難しい。さらに「自分がやったほうが早い」という感覚になりがちで、属人化は自然と進行してしまいます。

「なぜ相談しないのか」といぶかる人もいるでしょう。しかし、これも理解したいポイントがあります。多くの場合、相談する“意味づけ”が共有されていないからです。あるいは、「誰に相談したらいいかわからない」という問題が潜んでいたりもします。指揮命令系統の混乱が背景にあります。周囲が忙しそうにしているために、相談することが憚られるという状況も考えられます。

属人化が起きると、職場には次のような影響が生まれます。

① 仕事が止まる

その人が休めば業務は止まり、誰も手を出せない。

② 周囲のストレスが増大

助けたくても助けられず罪悪感が生まれたり、逆に「あの人が抱え込むから」と不満が蓄積することもあります。

③ 組織の経験値が蓄積しない

経験が“会社の資産”にならず、毎年同じ課題が繰り返されます。

ですが、実はもう一つ見逃せない影響があります。属人化した仕事は、本人だけの“個の世界”になります。周囲は入口がわからず、意見も出せず、協力もしづらい。すると他の社員は、「あれはあの人の領域だから」「余計なことを言わないほうがいい」と、静かに距離を置き始めます。

属人化を解消するための第一歩は、意外にもテクニックではありません。「属人化はよくない」という認識を、組織全体で共有することです。というのも、属人化している“本人”にとっては、自分の判断でスピーディに仕事をこなせる状況は、実はとても快適だからです。この状態が長く続くと、属人化は本人にとって“居心地の良い世界”になります。

次に考えたいのは工程を明確にすること、仕事の見える化です。ただしこれはほかの人の力が必要です。仕事の中に埋没している人にとっては、仕事自体を俯瞰的に把握するのは難しいからです。第三者が客観的に仕事の内容を聞き出し、プロセスとして組みなおす必要がある。その過程で、無駄な工程が見つかり、業務のスリム化に役立つ例も見受けられます。

仕事の属人化は、個人の問題でも性格でもありません。組織の仕組みと関係性が引き起こすものです。

さて、あなたの会社では、仕事は“人につく”状態でしょうか？それとも“仕組み”につく状態でしょうか。