社長やリーダーの自己開示と会社の棲みやすさの関係
先日とあるところでお会いした中堅の女性社員さん、「先輩方が皆さん素晴らしくて、自分はあそこまで仕事ができるか自信がない」とおっしゃる。「こういうことを常々思っているのだけれど会社で公言するのは憚られ、自分の仕事ぶりが周囲から見てどのように評価されているのかいつも気になっている」という。
「だったら、その通り言ってみたらどう?」と提案してみたのですが、イエスでもなく、ノーでもなく、うーんと言葉を濁しておられる。
推測するところ、自分の不安を自己開示することにちょっとした恐怖を感じている様子。自己開示した挙句に否定的な言葉を投げられたりしたら、不安が解消するどころか増幅するのは間違いない。だから、自分の心のうちを素直に表現するのに躊躇しているとお見受けしました。
ネットで検索してみると、自己開示のメリットは多々語られています。例えば、信頼関係が深まる、コミュニケーションが円滑になる、心理的安全性が高まる…。しかし、ここで考えたいのは「誰が」自己開示するかによって、その効果はまるで違うということです。
結論から言えば、リーダーや経営者こそ自己開示をすべきです。なぜなら、リーダーの自己開示は、職場の「棲みやすさ」を決定づける重要なファクターだからです。
多くのリーダーは「弱みを見せたら舐められる」「部下が不安になる」と心配し、強がりを続けます。経営者ならなおさら、「社長が弱音を吐くなんて」と自分に厳しくしてしまう。しかし、実際にはその逆の現象が起きます。
部下は、リーダーの強さだけでなく「人間らしさ」をちゃんと見ています。完璧に振る舞われると、部下は自分の不完全さを言えなくなる。「あの人はなんでもできるのだから、自分の悩みなど言うべきではない」と勝手に萎縮してしまい、結果として職場に緊張が走るのです。
誰も弱みを言わない組織では、ミスも課題も共有されず、問題は水面下で大きくなり、最後に爆発します。
逆に、リーダーが「実はここが不安なんだよね」「私も昔同じミスをしたことがあってね」と自然に話せる職場では、部下も安心して心を開けるようになります。
職場が棲みやすくなると、まずコミュニケーション量が増えます。誰かが「これ、ちょっと気になっているんですけど…」と言える雰囲気は、組織にとって貴重です。なぜなら、課題の早期発見ができるから。これは生産性向上に直結します。さらに、心理的な余白が生まれると、人は創造的になります。
では、なぜリーダーの自己開示がこれほど組織に効くのでしょうか。理由は三つあります。
①「弱みを見せても大丈夫」という許可を組織に与えるから
リーダーが自己開示すると、「弱みを出すのは恥ずかしいことではない」という合図になります。これは組織の風土をがらりと変えます。
②部下の不安や恐れを軽減し、動きやすさが増すから
上司が「わからない」と言える職場では、部下の「できません」が罪になりません。その結果、相談が増え、問題が早く片づきます。
③挑戦に対する心理的ハードルが下がるから
失敗が許容されると、社員は挑戦します。挑戦が増えれば、当然ながら成果も増える。やる気の上がる組織は、例外なくこの構造を持っています。
誤解のないように言うと、自己開示は感情の垂れ流しではありません。「泣き言」を言うのとは全く違うものです。
あなたの会社では、リーダー自身がどれほど自己開示できているでしょうか。部下が悩みや不安を話してくれていますか? そして何より、あなた自身は職場で「素」でいられていますか?
組織の棲みやすさは、リーダーから始まります。そして、その棲みやすさこそが、業績を底上げする力になるのです。
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