無頓着な利用を避けよう クラウド型の生成AI
この話題はすでに何回か書いていますので、もしかすると「またか」と思われるかもしれません。しかし、とても大切なことなのでしつこく発信し続けていきたいと思います。
国内における生成AIのビジネス利用は、いまだ「まだら模様」です。経営層が生成AIを“壁打ち相手”として活用し、一定の成果を上げている会社がある一方、まったく手をつけていない会社も珍しくありません。現場レベルの活用も、先進的な企業を除けば研修の受講やスキルアップにとどまっているのが実情でしょう。この二極化は今後さらに進む可能性がありますし、そうならないよう支援するのが私たちコンサルタントの使命だと考えています。
ただし、最近「活用が進んでいる側の企業」で、見過ごせない問題が静かに広がっています。それが 「企業データの扱いに対する無頓着さ」 です。私はこの点について、あえて本音で解説しておきたいと思います。
今回は少し長くなってしまうと思いますが、いつものようになるべく専門用語を廃して解説してゆきます。内容は以下の通りです。
- 生成AIにおける「学習」とは何か?
- 「規約だけで機密情報を守られるのか?」という問題
- 「断片的に情報入力しただけでも危険」という点
- 「AI取締役」時代に求められる視点
さて、早速進めていきましょう。
生成AIにおける「学習」と「利用規約」の関係
難しい専門用語は使わずに説明します。生成AIは、プログラムが完成した時点では何の知識も持っていません。そこに、世界中から集めた大量のテキストデータを一気に読み込ませることで、言語のパターンや知識を“統計的に”学習してゆく、という仕組みになっています。
この学習の質と量は、生成AIの実力を左右します。したがって各社は、公開データ・ライセンスデータ・学術論文・書籍など、膨大な教材を確保することにしのぎを削っています。今日の生成AIが高度な回答を返せるのは、この莫大な学習努力の成果にほかなりません。
公開されている生成AIの学習がどれほど強力になっても、生成AIは個々の企業の内部事情については何も知りません。そこで企業の担当者が、自社の業務情報をAIに“教えて”補おうとするケースが増えています。このときに問題になるのが、
クラウド型AIに業務データを渡してしまう行為に対して、驚くほど無自覚な人が多い
という点です。各生成AI企業の利用規約には、
「ユーザーのデータは学習に使わない」
「設定によりモデル改善に利用しないようにできる」
といった文言があります。
しかし、ここには次の2つのリスクが潜んでいます。
① 規約は“約束”であって、技術的保証ではない
クラウドAIは、ブラウザ経由でもAPI経由でも、入力データは一度クラウドのシステムに到達します。
規約がどうあれ、システム内部にログが残る可能性はありますし、「絶対に学習に使われない」と外部から検証する術もありません。
よく「ブラウザ利用は危険だが、APIなら安全」という話を耳にしますが、これは正確ではなく、ベンダーごとのデータ処理のポリシーに従って内部管理されているのが実情ですので、技術的に守られているわけではなく、契約書で守られているだけ、というのが実情なのです。
② 一度学習されてしまえば、取り消しができない
もし誤って生成AIの内部のモデル改善にデータが利用されてしまった場合、その知識は生成AIモデルの中に溶け込んでしまいます。生成AIの基礎知識として蓄えられてしまうわけです。
この状態になると、データを完全に消去することも、どの情報が学習されたのかを検証することも不可能になります。
つまり、一度取り込まれた知識は“元に戻せない”ということになります。この構造上のリスクを充分に理解しておく必要があります。
「断片的に入力しただけでも危険」という点
機密ファイルを丸ごとアップロードしなくても、業務手順や数値データ、実在顧客の状況、といった情報を断片的にチャットで説明するだけでも、企業秘密が流出するリスクがあります。なぜなら生成AI側は理論上、断片情報を統合して内部のログに蓄積することが可能だからです。
多くの利用者が、これを認識しておらず、リスクが軽視されているように見えます。
「AI取締役」時代に求められる視点
最近「AI取締役を導入した」という企業のニュースを耳にすることが増えてきました。しかし、そのたびに私は
「そのAIはどこのクラウドで動いているのか?」「経営データはどこに保存されているのか?」
という疑問(心配)が湧きます。
経営層の判断材料となる重要情報をクラウドに預け、AIによる処理過程をブラックボックス化したまま使うのは、あまりに危うい。
“AI取締役から企業データが漏洩する”という、本末転倒な事態も理論上は起こり得ます。
このように、生成AIを健全に活用するためには、「規約を信じる」ではなく「構造を理解する」ことが欠かせません。
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クラウド型生成AIの「利便性」「柔軟性」は魅力的です。しかしその裏には、データの行方が利用者から見えない、一度取り込まれた知識は取り消せない、という、構造的なリスクが横たわっています。
これらを理解し、社内で適切にルールを設け、場合によっては社内でネットワークに接続せずに使えるローカル型のAIとの棲み分けを図ることが、これからの企業に求められる判断だと考えています。
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