経営者の旬と後継者の旬

拙著『親子経営の教科書』(マネジメント社)の出版の際、5社の親子経営企業で取材の機会を得ることができた。5社のケースから親子経営企業の経営エッセンスを読み解きました。今日はその第8話。
【後継者の旬を逃さず経営を任せる】
親子経営企業の経営者からよく聞かれることのひとつが、後継者が幾つになったら経営を譲るのがいいだろうかというもの。私がそのときに経営者に申し上げるのは、貴方は幾つまで経営を続けるつもりなのか、ということだ。
父親である経営者がよく言う話に、息子に経営を任せようと思うのだが、まだまだ年が若く頼りないので任せられない、ということがある。経営者でなくとも一般的にも、父親は息子が幾つになっても頼りなく思えることが多い。
しかしながら、本当にそうなのだろうか。なかには父親が言う通り、誰から見ても実際、まだまだ勉強、経験不足で未熟だと思われる息子はいる。また逆に、誰から見ても年齢の割には、よくやっているという息子もいる。
親子経営において、父親である経営者と子息、息女が後継者という場合、後継者が活躍できる年齢、年代に後継者に経営を任せるのが適当、適正であることは間違いない。私見だが、人には働き盛りと思われる期間があり、それは概ね30才~60才までではないだろうか。
後継者に経営を任せるなら、後継者がその能力を発揮できるこの期間にやらせるのが当然だろう。父親である経営者は、自分の年齢を考慮しながら、後継者に思い切って任せる覚悟が必要である。
多くの経営者は「任せる」と言いながらも、実際には重要な意思決定を手元に残し、最終判断だけは自分で行おうとする。いわば「部分的委譲」にとどまっているケースが少なくない。しかしこれでは、後継者は責任と権限が一致せず、真の意味で経営者としての経験を積むことができない。
経営とは結果責任である。結果に対して全責任を負う立場に立って初めて、意思決定の重みを体感し、判断の質が高まっていく。したがって、後継者に経営を任せるということは、単に役職や肩書を与えることではなく、「最終責任を引き受けさせる」ことである。
もちろん、いきなりすべてを任せることに不安を感じるのは当然だろう。その場合には、段階的な移行も有効である。例えば、一定期間は父親が会長として後ろに控え、助言役に回る。そして日々の経営判断は後継者に委ねる。
重要なのは、「口を出す頻度」を意識的に減らすことである。親子という関係性ゆえに、つい細かな点まで指摘したくなるものだが、それが後継者の自主性を奪う。失敗もまた貴重な経営資源であると捉え、一定の失敗は許容する姿勢も必要である。
一方で、後継者側にも覚悟が要求される。任される以上、「まだ経験が足りない」という言い訳は通用しない。むしろ、経験が不足しているからこそ、誰よりも学び、考え、動く姿勢が求められる。
親子経営の難しさは、情と理のバランスにある。情に流されれば任せきれず、理に偏れば関係がぎくしゃくする。この両者をどう調和させるかが、事業承継の成否を分けることになる。
後継者には「旬」がある。その旬を逃さず、大胆に任せる。そして任せた以上は、腹を括って見守る。このシンプルだが実行の難しい原則こそが、親子経営を次の成長ステージへと導く鍵になる。
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