リーダーに信失くば、メンバーの心が離れる

今日は私の子どもたちにリーダーの話しをしよう。
第3話
【リーダーに信失くば、メンバーの心が離れる】
ひとが信用を失くすのは一瞬で足りる。信頼を失くすのもまた一瞬のことだ。経営者であった私が振り返って想うことは多くある。これもそのひとつ。
経営者が社員の信頼と信用を得るのは簡単なことではない。経営者の一挙手一投足を常に社員が見ていると思ったほうがいい。それは彼らにとって当然のことだと思う。会社というのは、彼らの人生、彼らの家族の人生までも大きく左右してしまう。
その責任者が経営者なのだから、彼らが経営者を見る目が真摯で厳正なのは当たり前のことだ。よって、経営者が信用、信頼できると思ったなら、彼らは持てる力を余すことなく発揮してくれるだろう。
反面、彼らがこの経営者はダメだと思った瞬間、彼らのやる気が一瞬に消え失せることになる。企業の業績を左右する大きな要因がここにある。経営者はこれを肝に命じ、常に己の言動に細心の注意を払わねばならない。
私が若い頃、大変お世話になった取引先社長に心から心酔していたことがある。経営者として多くのことを学ばせていただいた。その社長に出会うたび、「社員は社長の言葉ではなく、社長の後ろ姿を見ている」と実感していたものだ。
当時の私は、その意味を本当には理解できていなかったように思う。経営者とは、優れた戦略を語り、立派な理念を掲げ、皆を引っ張っていく存在だと思っていた。しかし長く経営を続けてきて、実際は少し違うことを知った。
社員は経営者の“普段”を見ている。苦しい時にどんな表情をしているか。約束を守る人間か。自分に厳しいか。都合が悪くなった時に逃げないか。弱い立場の者にどう接しているか。そういう小さな姿を、社員たちは実によく見ている。
経営者の中には、立派なことを口にする人がいる。理念も戦略も素晴らしい。しかし、言っていることとやっていることが違えば、人は必ず離れていく。
「社員を大切にする」と言いながら、自分だけ贅沢をする。「挑戦しろ」と言いながら、自分は責任を取ろうとしない。「一致団結だ」と言いながら、陰で人の悪口を言う。これでは誰もついてこない。
人は完璧なリーダーを求めているわけではない。失敗しない経営者など存在しないのだから。社員もそれくらい分かっている。だが、誠実であることは求めている。
失敗したなら素直に認める。間違ったなら謝る。約束したことは守ろうとする。自分だけ逃げない。その姿勢に、人は信頼を寄せるのだと思う。
論語に、「信なれば即ち人任じ」という言葉がある。信があってこそ、人は安心して仕事を任せることができる、という意味だ。これは経営の本質を突いた言葉だと私は思う。
会社という組織は、最終的には“信”で成り立っている。社員が「この人についていこう」と思えるか。取引先が「この会社なら信用できる」と感じるか。金融機関が「この経営者なら支援したい」と考えるか。結局はそこなのだ。
どれだけ頭が良くても、どれだけ戦略に優れていても、信を失った経営者に人はついてこない。逆に、不器用でも誠実な経営者には、不思議と人が集まる。
私自身、多くの経営者を見てきたが、長く繁栄する会社には共通点があった。それは、経営者に“信”があることだった。社員に対して嘘をつかない。ごまかさない。弱い者を切り捨てない。そういう経営者の周りには、最後まで人が残る。
会社が苦しい時、本当に経営者を支えるのは、金でも設備でもない。人である。その人たちが最後まで力を貸してくれるかどうかは、普段の経営者の姿勢によって決まる。信頼は長い時間をかけて積み上がる。だが失う時は一瞬だ。
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