経営哲学が意思決定をつくる
「西田先生、わかりました。それで行きましょう。よろしくお願いします。」酷暑でも肌にエアコンが気持ち良い会議室でのこと、しばらく当方の提案を聞いていた支援先の社長が、はっきりと、そしてきっぱりと意思決定をしてくれた瞬間です。決して小さくない投資額への決裁を、即断即決してくれました。
もっとも、私は経営者には常に即断即決が求められる、と申し上げたいわけではありません。慎重に検討すべき案件は数多くありますし、情報が不足している段階で拙速に判断することが望ましいとは思いません。
一方で、その案件が会社の経営哲学に照らして「やるべきこと」であるならば、話は変わってきます。経営哲学とは、経営者にとって物事の善し悪しを判断する基準です。判断基準が明確であれば、迷う理由は少なくなります。選択肢を比較検討した結果として結論が早く出るのではなく、「この会社として進むべき方向は最初から決まっている」という状態になるのです。
つまり、即断即決を目指した結果ではなく、経営哲学が十分に磨き込まれているからこそ、結果として即断即決になる。その順番が重要なのだと思います。
さてここで、経営者にとって経営哲学とは何か?との問いを立ててみたいと思います。私にとっては別な支援先ですが、「口を開けば経営哲学のことしか語らない経営者」、みたいなモデルもあるのですが、経営哲学は、本来それが通らない以上どんな仕事も進まないわけですから、経営者からすれば最も心を砕くべき対象であることは間違いなさそうです。
一つだけわかっていることがあるとすれば、経営哲学の強さこそが会社の成長力を産み出すということです。システム開発ではプログラムのもっとも基礎的な部分をProof of Concept(PoC)と呼んで、この部分がバグなく走ることを開発成功の指標にしています。経営にとってのPoCとは、まさに「経営哲学が顧客にも協力会社にも、そして社員にも、しっかりと受け入れられるかどうか」なのです。
どれほど優れた経営戦略を描いても、その土台となる経営哲学に共感が集まらなければ、組織は長続きしません。逆に、経営哲学が明確であれば、それに共鳴する人材や取引先が自然と集まり、会社全体の判断にも一貫性が生まれます。私はこれこそが、企業が持続的に成長するための最も重要な競争力だと考えています。
そう考えると、何かと言えば経営哲学のことしか話さなかった松下幸之助などの事例は、経営者としてむしろ当たり前なのかもしれません。経営哲学とは、社内向けの標語でも、会社案内に掲載する飾り文句でもありません。日々の意思決定を支え、迷いを取り除き、人を惹きつけ、企業の未来を形づくる基盤そのものです。
経営者が毎日のように経営哲学を語るのは、社員に理念を浸透させるためだけではありません。自らもまた、その哲学を何度も確認し続けることで、ぶれない判断を積み重ねていくためなのです。経営哲学を磨き続けること。それは、会社の未来を磨き続けることと、ほとんど同じ意味なのではないでしょうか。
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