補助金から見えてくる次の時代のビジネス
「西田さん、採択は快挙ですね。ご尽力ありがとうございます。」つい先日、とある補助金の獲得に成功されたクライアント企業の経営者から直接いただいたご挨拶です。持続可能性を前面に出した提案の中身が良かったので、勝算はあると思っていました、私はそんなふうにお答えしたと思います。
令和8年も中盤にさしかかり、さまざまな補助金の審査が進んできています。むろん、年度の後半にかかるものも少なくないのですが、毎年夏は採択を受けてあちこちで新しいプロジェクトが始まる時期です。
補助金というと、「設備を導入するために国からおカネを出してもらう制度」というイメージをお持ちの方も少なくないと思います。もちろん、それで間違いというわけではありません。ただ、平成から令和へと時代が進む中で、補助金に求められる役割はずいぶん変わってきました。
平成の初め頃までを振り返ると、政策支援の中心にあったのは、企業の設備投資や技術開発を後押しし、それによって生産性や競争力を高めるという比較的分かりやすい考え方でした。良い設備を入れる、優れた技術を開発する、それによって企業が強くなり、雇用や地域経済にも良い影響が及ぶ。いわば「企業を強くすることが、社会を強くする」という発想です。
その後、産学連携や新事業創出、地域活性化などが政策テーマとして重みを増すにつれ、単独企業の設備や技術だけではなく、大学や地域、他企業との連携によって新しい価値を生み出すことが重視されるようになりました。産学連携が平成以降広く知られるようになり、国や自治体による政策的な支援が継続してきたことも、その一つの表れだと思います。
そして令和に入って、この流れはもう一段進んだように見えます。脱炭素、資源循環、人口減少、人手不足、地域経済の維持、サプライチェーンの強靱化など、企業一社だけでは解決できない問題が次々と経営課題になってきました。その結果、補助金の申請書でも「御社がどれだけ儲かるのですか」という話だけではなく、「その事業によって社会にどのような変化を起こすのですか」という説明が、以前にも増して重要になってきています。
特に注目したいのが、持続可能性という視点です。脱炭素に貢献する、廃棄物を減らす、未利用資源を活用する、地域内で資源を循環させる、働き手を育てる。こうした取り組みは、一昔前であれば本業とは別の「社会貢献」と整理されることもありました。ところが今は、それ自体を競争力に変え、新しい市場を作り出すことが期待されるようになっています。
これは世の中の経営者にとって、なかなか面白い変化ではないでしょうか。
社会に良いことをするから、利益を我慢するのではありません。社会が解決してほしいと考えている課題に対して、企業が技術やノウハウを投入し、その解決策を事業として成立させる。その結果として会社が成長し、さらに大きな社会課題に挑戦できるようになる。補助金もまた、そのような好循環を作るための呼び水として使われ始めているように思えるのです。
そう考えると、補助金申請で問われているのは、単なる作文の巧拙ではありません。「この設備が欲しいから補助してください」という話と、「この設備を起点として、今まで解決できなかった課題を解決し、新しい市場を作ります」という話では、同じ設備投資でも意味がまるで違います。
採択されやすい申請書を書くために持続可能性を後付けする、という順番ではないのです。社会がどちらへ向かっているのかを読み、その変化を先取りした事業を考える。その事業を実現する手段の一つとして補助金を使う。私はこの順番が大切なのだと思っています。
変化を先取りするとすれば、社会経済構造そのものを変革する流れを創り出すことが求められているのではないでしょうか。
では、これからどのような構造変化が起きるのでしょうか。一つは、資源を大量に投入し、製品を作り、使い終わったら捨てるという経済から、できるだけ資源を循環させる経済への転換です。いわゆるサーキュラーエコノミーですが、これは単にリサイクル量を増やせば良いという話ではありません。製品設計、調達、製造、販売、回収、再利用までを含めて、ビジネスの仕組みそのものを作り替える話です。
もう一つは、エネルギーと脱炭素を巡る変化です。これまで企業にとってエネルギーは「買って使うもの」でしたが、今後は作る、貯める、融通する、使用量を制御するといった選択肢が広がります。そうなれば、工場や物流、地域インフラの姿も変わります。
さらに大きいのが、人財を巡る変化です。人口減少が進む以上、「必要になったら人を採ればよい」という経営は徐々に難しくなります。大学や高専との連携、インターンシップ、技術開発と人財育成の一体化など、人を採用するところからではなく、人が育つ仕組みそのものに企業が関与する発想が重要になってくるでしょう。
そして、これらに共通するのは、一社だけでは完結しないという点です。資源循環であれば、排出する企業、回収する企業、再生する企業、再生材を使う企業がつながらなければ循環は生まれません。技術開発であれば大学や高専との連携が有効でしょうし、地域の脱炭素であれば自治体や金融機関を巻き込む必要も出てきます。
つまりこれから強くなる会社とは、単に「良いものを作れる会社」だけではなく、「新しい仕組みを作り、周囲を巻き込める会社」なのではないでしょうか。
私はここに、中小企業にとって大きなチャンスがあると考えています。社会経済構造が変わるとき、過去の成功体験や巨大な設備が必ずしも強みになるとは限りません。むしろ現場をよく知り、小回りが利き、経営者自身が意思決定できる会社だからこそ、素早く新しい仕組みに挑戦できる場面があります。
補助金の審査結果は、そうした未来への挑戦に対する一つの評価でもあります。もちろん採択されたから事業の成功が約束されるわけではありません。本当の勝負は、むしろそこからです。
でも、自分たちが考えた未来への一歩に対して、公的な審査を経たうえで「やってみる価値がある」と評価されたのだとすれば、それは経営者にとって大いに自信を持ってよい出来事だと思うのです。
補助金採択という形で世の中がそれを認めてくれる、それを追い風に変えて、更なる高みを目指してほしいと私は強く思っています。
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