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果てしない「PDCA経営」の行き着く先はAI化の停滞?!

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

先日、英BBCが「なぜ日本企業はAIを使うのがこれほど遅いのか」という記事を出しました。人手不足、高齢化、低い生産性と、AIを使う理由なら山ほどあるはずの日本で、なぜ職場でのAI活用が進まないのか、という内容です。記事の中では、日本企業の「リスク回避志向」と「保守性」が原因だと指摘されています。

記事では、職場でAIを使っている労働者の割合が、欧米諸国と比べて日本は桁違いに低いという国際調査が引き合いに出されています。そして、日本に拠点を構えた海外のAI企業の経営者や、日本企業を研究する経営学者が口を揃えて言うのは、「日本企業はAIのミスをほとんど許容しない」「生成AIは文書作成や要約といった低リスクの作業には使われているが、基幹業務や意思決定にはほとんど使われていない」ということです。



耳が痛い話ですが、私は「その通りだろう」と思います。ただ、外国の方が指摘する「リスク回避志向」というひと言では、なぜそうなったのかまでは見えてきません。今回はその「なぜ」を、私なりに掘り下げてみたいと思います。

長年、中小企業の社長さんや大手企業の情報部門の方々とお付き合いしてきて感じるのは、「あらゆるリスクを回避すること」そのものが企業文化になってしまっている会社が、実に多いということです。

本来、経営における判断は「リスク」と「メリット」を天秤にかけて行うものですよね。ところが、多くの会社ではこの天秤がそもそも存在しません。リスクが一つでも見つかった時点で、メリットがどれほど大きかろうと、話はそこで終わり。「リスクとメリットのバランスを考慮する」という発想自体が欠けているのです。

なぜこうなってしまったのか。私は、日本企業が長年、旨としてきた「カイゼン」の考え方に一因があると考えています。

日本企業は「PDCA」に代表されるカイゼン活動を、製造現場を中心に徹底してきました。これ自体は世界に誇るべき文化ですし、否定するつもりはまったくありません。

しかし、PDCAは「今あるものを、少しずつ良くする」ための手法です。細かな改良の連続では、少しずつの改良はできても、「改革」はできません。1ミリずつ前に進んでも、崖の向こう側には渡れないのです。

問題は、このPDCAの考え方が現場だけでなく、経営そのものにも染み込んでしまったことです。私はこれを「PDCA経営」と呼んでいますが、PDCA経営には良い点もあります。手堅く、安定していて、大きな失敗がありません。しかしその代償として、改革マインドは醸成されにくくなります。

さらに厄介なのは、PDCAの文化の中では「リスクの顕在化=失敗」という等式が定着してしまったことです。PDCAは「問題を出さない」ことを是とする活動ですから、問題が顕在化すれば、それはすなわち「誰かの失敗」と見なされる。そうなると、社員も管理職も、リスクは過度に回避するのが合理的な行動になってしまいますよね。

この結果、DXについても……

例えば、ペーパーレス化。
例えば、基幹システムの刷新。
例えば、社内の情報共有基盤の整備。

……といった「守りのシステム化」は進められるのに、商品やサービスと融合した「攻めのDX」は、ごく一部の企業に留まっている、という様相になっているのです。

AIも、攻めのDXとまったく同じ位置づけに置かれています。BBCの記事にある「文書作成や要約にしか使われていない」という指摘は、まさにこの状態です。関心は持っている。セミナーにも行く。ツールも契約する。しかし「人柱にはならない」。

さらに、AIには攻めのDXとは別の、もう一つの厄介な問題があります。それは、AIが「人の働き方」を著しく変える要素を持っているために、日本型の雇用環境と相性が悪い部分がある、ということです。

考えてみてください。AIを使いこなす優秀な社員がいたとします。その人が組み上げたAIエージェントには、ビジネスのノウハウが詰まっています。ではそのノウハウは誰のものでしょうか? そもそも、その仕事のエキスパートである先輩社員のノウハウをコピーしたものであって、AIの使い手が自ら作り上げたノウハウではありません。だから、AIの使い手だけを高く評価するわけにはいかない。

一方で、今までは何年もかけて先輩社員からノウハウを吸収してきたのに、今は新人にAIエージェントを付ければ、それなりにこなしてしまう。これでは社内のあちこちで「下剋上」が発生してしまいます。

ジョブ型雇用に完全シフトしている会社であれば、話は単純です。AIによって自動化される「ジョブ」そのものが無くなるので、そのジョブに就いていた人を解雇すれば済む。しかし、メンバーシップ型の日本型雇用では、こうはいきません。人を抱えたまま、仕事だけがAIに移っていく。評価制度も、育成の仕組みも、組織の序列も、全部が揺らぎます。

つまり日本企業にとってAI導入は、「業務が変わる」というリスクに加えて「組織が変わる」というリスクまで背負うことになる。そしてどちらのリスクも「顕在化させてはいけない」文化の中では、AI化が鈍くなるのは当然の帰結なのです。

そしてもう一つ、見落とされがちなのが「何もしないリスク」です。実は、このリスクだけはすでに顕在化しています。例えば、買い手の行動は今、検索エンジンでの検索からAIへの相談に移りつつあります。AIが引用しないコンテンツしか持たない会社は、比較検討の候補にすら挙がりません。しかし、この機会損失はトラブルとしては顕在化しません。アラームも鳴らず、クレームも来ず、ただ静かに問い合わせが減っていくだけです。PDCAは顕在化した問題にしか反応できませんから、この種のリスクは検知すらされないのです。

では、どうすれば良いのでしょうか?

私は「PDCAをやめよう」とは言いません。カイゼンの文化は、日本企業の強みです。しかし、PDCAとは別の軸で、一つだけマインドチェンジが必要だと考えています。

それは、「リスクを顕在化させない」という考え方から、「リスクは顕在化しても対応できるようにしておく」という考え方への転換です。

発生する可能性があるリスクを、ゼロにすることはできません。しかし、コントロールすることは可能です。米国の経営者は「まず試して、ミスがあれば直す」という発想だとBBCの記事にもありましたが、これは無鉄砲なのではなく、「直せる準備」をした上で試しているのです。

例えば、顧客との電話対応にAIエージェントを導入するとしましょう。この時、多くの日本企業は「間違った回答をしたらどうするんだ」で議論が止まります。しかし本来やるべきなのは……

- どのようなトラブルが想定しうるか
- それが顕在化した際に、どうリカバリーをかけるか
- 誰が、どのタイミングで、何を判断するか

……を「リスクコントロールマトリクス」として整備しておくことです。誤案内の可能性があるなら、通話内容を即時にテキスト化して確認する体制を作る。クレームに発展しそうなら、人間に即座にエスカレーションする条件を決めておく。こうしておけば、リスクが顕在化しても「失敗」ではなく「想定内の対応」になります。

さらに言えば、このマトリクスそのものをAIに管理させることもできます。リスク顕在化の兆しが見えたら対応を推奨する、あるいは自動実行する。つまり、AIを導入するリスクを、AI自身にコントロールさせるわけです。これは、私が拙著『アナログな会社を劇的に変える 中小企業のための会社を正しくデジタル化する方法』でも繰り返し述べてきた「業務を可視化してから仕組みを入れる」という原則の、リスク面での応用でもあります。トラブル時の対応手順が可視化されていなければ、AIに管理させることもできないからです。

行き過ぎたPDCAの結果、「リスクを絶対に顕在化させない」というマインドに陥ってしまった日本企業に対する処方箋は、もちろんこれだけではないと思います。評価制度の問題も、雇用の問題も、簡単には解けません。

しかし、少なくとも「顕在化しても対応できる」という準備をすることは、明日からでも始められます。早く決定打を出さなければ、我々はまた周回遅れ、2周回遅れ……となっていきます。BBCに「日本のAIへの反応は、能の舞台のようだ。登場人物全員が『急がねば』と唱えながら、誰も動かない」と書かれたままで、良いわけがありませんよね。

自社のAI活用について、「リスクをどうコントロールするか」という観点から一度整理してみてはいかがでしょうか。必要に応じて、このような検討の壁打ちをさせていただくこともできますので、お気軽にお問い合わせください。

当社ベルケンシステムズ(株)では、業務可視化支援をはじめとする様々なコンサルティングサービスプランをご用意しております。ご興味があれば是非当社ホームページをご覧ください。

https://www.belken.jp/consulting/

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