異業種連携がひらくサーキュラーエコノミーの新市場
「そうすると、御社との協力が当社のビジネスにも新しい可能性をもたらしてくれるんじゃないかと思うんです。」先日、当社が仲介した企業間連携に関するトップ同士の面談で、一通り提案内容を聞き終えて、提案を受けた側の社長は提案へのお礼を述べた後で、協力が自社にとっても大きな機会になるのではとの見解を、淡々と語ってくれました。
この一言には、サーキュラーエコノミーに取り組む企業が直面する本質が凝縮されているように思います。この分野では知られたアパレル商社の社長が語った「サーキュラーエコノミーは、一社だけでは実現できない」という言葉は、いまや多くの業種に通じる真理です。資源循環や価値再生には、製品をつくる側と、使用済み製品を資源として扱う側が密接に連携すること(オープンイノベーション)が欠かせず、どちらか片方の努力だけでは限界があります。
背景にあるのは、これまでの「大量生産・大量廃棄」を前提としたリニア型経済の慣性です。循環を実現するには、サプライチェーンの構造そのものを見直し、情報とインセンティブを正しく共有し、価値を引き出す仕組みをともに設計する必要があります。だからこそ当社では、こうした取り組みをオープンイノベーションによる市場開拓戦略として積極的に提案しているのです。
象徴的な例として、株式会社デンソーやリバー株式会社が中心となって進める「ブルーリバース協議会」が挙げられます。廃車を粉砕して低品位な鉄源を取り出す従来手法とは異なり、自動車鋼板や銅・アルミといった高付加価値の素材をできる限りそのまま循環させる「水平リサイクル」を目指す大規模な挑戦です。素材本来の価値を残したまま循環させるという考え方は、まさにサーキュラーエコノミーの核心と言えます。
昨年施行された再生資源化高度化法でも、高度な再資源化技術が高く評価される仕組みが整えられました。国家レベルで循環経済を推進する方向性が明確になり、企業にとっても挑戦しやすい環境が整いつつあります。
この追い風をどう生かすかは、企業の姿勢にかかっています。
今回、当社が仲介したアライアンスもまさにその一例でした。製品の長寿命化という価値の最大化を目指すため、全く異業種同士でありながら、サーキュラーエコノミーの意義と目的を丁寧に確認するプロセスを踏んだ結果、驚くほどスムーズに話がまとまったのです。理念の共有こそが、協力のスピードを加速させるのだと改めて感じました。
実際、事業目的と理念さえ共有できれば、異業種連携の立ち上げはそれほど難しいものではありません。
何より大切なのは、トップ同士の信頼関係です。トップが互いに「この方向で進もう」と合意できれば、現場はむしろ加速度的に動き始めます。経営者にとって、進めるべき案件は一刻も早く前に進め、成果に結びつけたいものだからです。
ただし、この信頼基盤が弱いと話は逆方向に転びます。企業文化の違いが現場で摩擦を生み、用語や手続きのズレが不信の芽となり、気づけば協力に後ろ向きなムードが広がる……そんな事例も珍しくありません。
だからこそ私は、両社のトップに「雑草取り」の重要性を繰り返しお伝えしています。小さな違和感を放置しない、畑をこまめに見回るように、連携の土壌を常に整えておくことが大切なのです。コンサルタントとしてできることは限られていますが、この“雑草取り”を続けてゆくことこそ、連携を前向きに保つうえで欠かせない役目です。
いま、サーキュラーエコノミーの実践は、企業にとって大きな事業機会へと変わりつつあります。自社では到達できなかった価値を、他社と組むことで実現する。異業種連携という新しい扉を開けば、未開の市場が広がっているかもしれません。
そして何より、社会にとって良い取り組みは、長い目で見れば必ずビジネスの成功につながります。
サーキュラーエコノミーを軸に新しい連携に踏み出す企業にとって、いまはまさに追い風の時代です。ぜひこの機会を前向きに捉え、新たなパートナーシップの構築に挑戦していただければと思います。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

