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No.061 人を育てる組織を作りましょう

  クライシスマネジメント(想定外の危機への対応) 林祐 SPECIAL
林祐 SPECIAL

クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)コンサルタント

株式会社イージスクライシスマネジメント 代表取締役 林祐

経営陣、指導者向けに、クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)を指導する専門家。海上自衛隊において防衛政策の立案や司令部幕僚、部隊指揮官として部隊運用の実務に携わる。2011年海将補で退職。直後より、海上自衛隊が持つ「図上演習」などのノウハウの指導依頼を受け、民間企業における危機管理手法の研究に着手、イージスクライシスマネジメントシステムの体系化を行い、多くの企業に指導、提供している。


経営者の皆様、部下をしっかりと育てていらっしゃいますか?

経営においては、次席以下の存在は非常に重要です。これがしっかりとしていないと経営者は休むことができません。
 経営者は常に緊張を強いられますが、その結果、意思決定の質が低下していき、緊急時の決断力が鈍くなっていくことはあり得ることです。
 どのような場合にも、しっかりと支えてくれる部下を育てておくということは経営においては大切なことです。

私が海上自衛隊を退職後、商社に入社して新編営業部の部長になった時、驚いたことがあります。
 ある日、私を採用してくれた専務が私の席に現れ、ニヤニヤしながら「今役員会議で林さんのことが話題になってたよ。」というのです。

何のことかと思ったら、一番給料を取って、経費も人一倍使っている部長の営業成績がその営業部で最低なのはどういう訳だ、ということなのだそうです。

私が再就職した商社は、社員の管理をすべてシステム上で行っていました。
 つまり、各人の使った経費、売り上げなどすべてがシステム上で管理されていたのです。

当時私は、営業部で使う接待費をほとんど部長の経費として処理し、営業成績はその契約を担当した営業部員に付けていました。
 私自身が全く営業をしていなかったわけではありません。
 海上自衛隊の先輩が再就職している企業を回っていろいろと紹介をしてもらい、何度か通ううちに話がまとまることもありました。
 あるいは名刺交換をした会社役員の方から私に電話で引き合いを頂いたこともあります。
 そのような場合、私は担当者を決め、その社員と一緒に出掛けて大まかな話をつけ、細部は担当社員に任せていました。
 その結果、商談が成立するとその社員の成績となり、経費は私に付くことになるのです。

私に言わせると営業部全体の売り上げと経費に関して私に責任があるので、私個人の売り上げなどどうでもいいと思っていたのですが、どうもそうではなかったようです。

となりの営業部長に訊くと、営業部全体の成績はもちろん部長の責任であるが、自分で取った仕事はちゃんと自分に付けなければシステムが誤った判断をするとのことでした。

大学の同級生で卒業後一部上場の総合商社に入社して、その頃役員に昇進していた友人に酒の席で聞いてみたところ、彼もうんざりしたような様子で、「俺たちが入社したころはそんなんじゃなかったけど、今は違うんだよね。課長と課長補佐が営業成績を競わなきゃならんのだ。次席を潰さなければ、こっちのクビが危ないんだ。」と言うのです。

いろいろな企業の重役が、最近は人を育てるのが難しいと言っているのをよく聞いていましたが、どういうことなのかよくわからなかったのが、ようやく腑に落ちたものでした。

そんな人事評価システムで、人が育つわけがありません。部下をしっかりと育てたことが上司として評価されるシステムにしなければならないはずです。
 部下を育てると自分の首が危なくなるというシステムでは人を育てることはできません。

1990年代後半に日本でも導入が始まり、2000年代になって急速に進展した成果主義、目標による管理がうまくいっているという企業は多くはないと言われます。

それは、この人事制度の仕組みが人事部主導で行われるからだという指摘があります。人事部が制度導入に際し、できるだけ定量的な評価をするように制度を作りたがるのですが、なかなか客観的に公平な定量化が難しく、精緻化すればするほど使いづらい制度になり、現場の感覚からずれていくからです。

この目標による管理、成果主義の人事システムにおいて、「人を育てる」ということが評価項目として考慮されていればいいのですが、当然のことながら、そんな定量化のできないものが評価されるはずがなく、評価されないものに一生懸命になる上司はいません。人が育たない制度になっているのです。

ただでさえ現在の中間管理職は極めて多忙で疲れ切っています。
 彼らが入社した頃、バブル崩壊の余波を受けて後輩が入社してこない時機が何年も続きました。会社も大幅な人員削減で新入社員の教育など手取り足取りやっている状況ではありませんでした。

つまり現在の中間管理職は自分たちも教育をしてもらえず、また後輩を指導するという経験もないまま管理職になってしまった者が多いのです。

それが目標管理が導入された結果、自分の課の成績は部下を教育するよりも自分で挙げた方が早いので課長自ら営業に回ってしまうプレイングマネジャーとなっていくのです。
 特に大型の重要案件ほど部下に任せず、自分で担当する管理職が多いようです。

さらに社内で様々な横断的なプロジェクトが行われる際に担当となるのはこれら中間管理職であり、多忙さに拍車がかかります。

それら人を指導する経験がほとんどない中間管理職に襲いかかってきているのが、女性や外国人の大量採用の要求であり、パワハラ・セクハラに対する強烈な締め付けなのです。

中間管理職が部下を育てることができないのは当然なのです。
 しかし、企業は人を育てなければなりません。

人を育てる組織でなければ、精強な組織になることはないことを経営者の皆様は銘記しなければならないのです。

米国企業はかつての日本企業のように人を企業内で育てるということに意を用いるということが無いように見えます。
 私は2回の米国駐在経験を持っています。そして米国の軍隊とビジネスの両方の世界を見てきました。
 確かに、米国企業では日本的な人の育て方は行われていないようです。

その米国発祥の目標管理という方式はやはり日本企業に直接定着させるのには無理があります。
 何故なら社会の仕組みが異なるからです。
 米国では一つのポジションに何十年も留まり続ける社員は珍しくない一方、向上心や野心のある社員は頻繁に異動を繰り返します。

 社内で人を育てることにあまり意を用いなくて済むのは、実はこのシステムのお陰なのです。
 多くの社員が一つのポジションに留まり続けることで、そのポジションに関してはそれぞれが超がつくベテランとなります。

一方で将来のトップを目指す人々は信じられないような勉強をしています。
 多くはMBAを取り、読んでいる本の量も半端ではありません。
 彼らの勉強量は日本の管理職の比ではありません。

日本ではMBAなどは実務には役に立たないと馬鹿にしてそのタイトルを取る人も多くはありません。
 確かにMBAのケーススタディ中心の教育が実務に直接役に立つかどうかは評価の分かれるところですが、とにかく日本のビジネスマンは勉強をしません。
 それなりの地位にいるビジネスマンの方々はそれなりに勉強しておられますが、大多数はろくに本すら読まないのです。

このように自分で自分を磨く習慣のない日本社会においては、やはり会社は必要な人材は育てていかなければなりません。

逆にしっかりと人を育てると、欧米とは異なり、育った社員は会社に忠誠心を持つので、会社にとって教育は投資なのです。

投資と言ってもお金がかかるわけではありません。上司が部下を育てようという着意さえ持てばできるのが会社の教育なのです。

繰り返して申しあげますが、上司が部下を教育することが評価されるような制度でなければならないのです。

 


「経営者のためのクライシスマネジメント」~元海上自衛官が教えるクライシスマネジメントとは~
林祐

クライシスマネジメント(想定外の危機への対応)コンサルタント

株式会社イージスクライシスマネジメント代表取締役

林祐

執筆者のWebサイトはこちら http://aegis-cms.co.jp/

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