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急速なEV化 危惧すべき日本の鈍足ビジネス

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

もうだいぶ前からのことですが、自動車産業については、曰く「100年に一度の大変革期」とか「EV、コネクテッドカー、自動運転」といったキーワードで新聞紙面を賑わせています。中国勢も多数参入しており開発競争・市場の陣取り合戦が活発化していることもあって、国内自動車部品メーカーなど自動車会社系列・非系列を巻き込んで構造改革に取り組みはじめています。

実は私はこの競争について大きな心配を抱えています。それは、「日本企業の今のビジネス速度では競争について行けない」ということです。だいぶ前、まだ20世紀の時代のことですが、仕事で台湾に滞在していた際、現地で懇意にしてくれた若手の電子回路技術者(以後Aさん)がいました。Aさんとは仕事のことだけではなく、実に様々な意見交換をさせてもらい大きな刺激をもらったのですが、その中に自動車の話題がありました。

あるときAさんと高速道路で2時間弱ほど移動する時のこと。彼が運転する車内でこんな会話をしました。

私 最近高速道路がどんどんできているね。クルマも多くなった。

A そうだね。自動車の輸入が最近急増しているそうだよ。

私 台湾はここまで急速な発展をしてきているので、そろそろ自動車製造に乗り出す会社が出てくるんじゃないの?

A いや、そうは思わない。まず自動車産業は規模が違う。台湾の会社ができる規模ではないと思う。

私 でも、経済の規模は確実に大きくなってきているし、現にAさんの会社だって急拡大しているじゃない。

A それでも自動車は別格だ。基礎研究力が必要だしね。日本では自動車だけでなく様々な分野での基礎研究が盛んだよね?

私 確かにXX研究所、という名前が付いた組織は多いし、素材研究も盛んだね。

A でしょ?でも台湾にはそれは少ない。なぜかわかる?

私 ???

A 基礎研究が必要な分野の仕事はビジネスとして成功するまでの時間が長すぎるからだよ。

私 時間がかかっても、その後は投資回収できる可能性が高いじゃない。

A 違うな。いいかな?私達は「ビジネスになる」と思った瞬間に素早く動く人間なんだ。しかし、何年かかるかわからない研究に人生の貴重な時間を使う人は少ないんだよ。それが中華思想というものだと、自分では思っている。

私 そうか。だから電子機器は「すぐやってすぐ儲かる可能性がある」から台湾で急激に立ち上がっている、というのか?

A そう。「あとは実行あるのみ」という状態になった後はがむしゃらに頑張って先行者利益を確保すれば良いからね。日本人はお金の姿が見えない状態からこつこつと研究したり準備したりするけど、その姿は我々から見ると異質なんだよ。なんであんな寿命の無駄遣いをするんだろう、ってね。

私 むむむ…。

こんなとりとめのない話をしていたのですが、その時にふとぎょっとしました。

「ビジネスになるとわかったらがむしゃらに突っ走る…」

これは当時から 電子機器開発組み立てのビジネスのスピードが日本国内の人間から見ると非常識に早い ことの理由だったからです。当時私はまだ30代の若手でしたし、自分はアクションが早いほうだという自負がありましたが、それでも「彼らのスピードにはかなわない。ついて行けない。」と考えていました。

 ここがおかしい、と言うと、次の日の朝には図面が修正されている

 傾向不良がある、と言うと、次の日には再検査作業を実施している

 部品を変更する、と言って当日発注し、翌日納品されてくる

これを、日本人がやると、「確実に進める。しっかりしたモノ作りをする。」という実直な考えに基づいた社内ルールに縛られる為、

 図面変更すると設計レビュー会議が必要だ

 傾向不良があるのであれば、その原因明確化・対策のレビュー会議、再発防止策の明確化ができないと製品の出荷は止まる

 部品を変更すると4M変更手続きをし、複数人でレビューされる

という、実に「しっかりしているが、とにかく形式的で、手間と時間がかかる」プロセスを取らざるを得ず、数日~数十日といった時間と膨大な作業が必要となってしまうのです。当然台湾の人達の数倍から数十倍の工数と時間を使うということです。

さて、この状況がEVにも押し寄せるとなるとどうなるか?今まで説明してきたこの内外格差、中華思想(これは学術的に正しい表現なのかは不明ですし、間違っていてもご容赦ください)のビジネススピードを持つ中国や台湾の会社と、親方である大手自動車メーカーとの長年の関係で育ってきた会社が同じ土俵で戦うとどうなるのか?国内メーカーも頑張っていますし、こんな格差があることは私よりも理解していると思うので、私が心配することではないかもしれませんが、相当熾烈な戦いになることは明白です。「日本企業には一日の長がある、長年の蓄積がある」と言われそうですが、その常識は変化が激しいEVでも通用するのか?私は大きな危惧を禁じ得ません。

私が日本の自動車産業の方に送ることができるアドバイスは、「とにかく敵は素早い。デジタル化も10~20年は先行している。製品戦略の立て直しや今までと異なる分野での技術開発を急ぐ必要があることはわかるが、平行してせめてこのデジタル格差を解消する努力も平行して進めるべきだ」です。

重ねて言いますが、とにかく彼らのビジネス迅速性はハンパ無いです。「日本のモノは良いよね」で生き残れる世界でもありません。迅速性が彼らとの戦いで互してゆくための最重要キーワードであることは事実ですし、そのためのデジタル化を急ぐべきなのだと思います。

 

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