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「餅は餅屋」とは限らない IT会社の基幹システム刷新失敗

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

「ITベンダーに任せれば必ず良いものができる」…こう話をする人が多いことは何回かこのコラムでも取り上げてきました。そして、それは必ずしも正しいとは限らないということを。

先日のことですが、ある中堅のITベンダーが基幹システム刷新に失敗し、特損を計上する旨の発表をしました。5年かけたプロジェクトを見直し、18億の特損を出すという報道です。従業員2,000名ほどの企業の様ですので、18億円という金額からすると、システムとしてはほぼ完成していたと思われます。要するに「作った、動いた、使えない」という本コラムでも何回か登場した事象が発生したと思われるのです。

報道の中に今回の失敗の経緯が簡単に書かれていました。

子会社を吸収合併。それぞれが運用していたシステムの統合や、老朽化していたシステムの刷新が必要になり、2018年から新しい基幹システムの企画・開発を進めていた。

当初は2020年10月の運用開始を目指していたが、追加の開発などにより延期。

さらに、テレワークなどによる働き方の多様化や、クラウドを活用したデジタル化の進展など社会・経済活動が急速に変容し、環境変化への柔軟な適応が必須であるものの、現時点で開発しているシステムでは、求める機能が十分に得られない。

ミッションや業務プロセス、企業風土が異なる会社を吸収していますので、当然仕事の進め方を全部見直す必要があったでしょう。2,000名の組織ですから、基幹システムを使うユーザーもそれなりに多いはずです。それらの人たちを束ね、業務プロセスをあわせてゆくことは、相当ハードなプロジェクト活動だったことが容易に想像できます。プロジェクトに参加していた当事者の目には、「業務プロセスのビッグバン的な変革」と見えていたでしょう。そしてさらに報道では、「テレワーク・働き方改革・・・」といった言い訳のような説明が続いています。想像が多分に含まれますし、間違いもあるかもしれませんが、こんなことが起きたのではないかと思います。

吸収した子会社も含めた業務プロセス改革作業

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会社と社会環境が求める働き方改革を実現するための「あるべき論」

という2段階のハードルを一気に飛び越えるためのプロジェクトを展開してしまったと考えられるのです。

同社がどのような働き方改革をやっていたのか、同社のホームページにいくつか情報が掲載されていました。どうやら働き方改革のコンサルタントまで入ったプロジェクトを展開していた様です。高度な働き方改革を目指すのは自由ですし、それが思い通りに実現できたなら、それはそれで素晴らしいことだと思います。しかし、複数の企業が一つの企業になって、統合されて業務プロセスとシステムを使うという非常にハードなプロジェクトを展開していたわけですから、そこに二番目の「働き方改革」というものすごく高いハードルを用意し、全部を一度に跳び越える等に責任者が指示したとするならば、それは少し無謀すぎるチャレンジと言えるでしょう。

以上は仮説の話ですので事実ではないかもしれません。しかしおそらくこのプロジェクトのPMやオーナーは、重大な失敗をしたことになります。業務プロセスの改革を甘く考えていた…。そして「プロジェクトのゴールを多段階に置くべき」という判断ができなかったからです。

同社の本業はITですしコンサルタントも豊富にいます。なのに、自社のプロジェクトが無惨な失敗をしてしまうとはなんとも皮肉なものです。当然、プロジェクトが難しい局面になったとき、社外に出ていたPMをプロジェクトに加えてなんとかしようとしたと思います。しかし、どんなに優秀なPMがいたとしても、あくまでもIT専門のPMです。業務プロセス改革で頓挫したプロジェクトをなんとかすることまではできなかったでしょう。それにそもそもハードルが多重で高すぎる。そしてプロジェクトメンバーが社内の同僚ばかりですから、自由な発言も許されなかったと思います。うまく成果を上げることもできず、プロジェクト破綻に至った。というのがおそらく(あくまで想像ですが)当たらずとも遠からず、でしょう。

餅は餅屋・・・時と場合によってはそうではない、ということを表している今回の事象でした。業務プロセスの改革を甘く考え、理想を追求しすぎると痛い目にあうリスクが高くなる、という重要な示唆を教えてくれている事例だと思います。本件はもう少し実情がはっきりしてきた場合、解説を加筆修正しようと思います。

 

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