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ファミリーガバナンスのための第一歩

SPECIAL

「信託」活用コンサルタント

株式会社日本トラストコンサルティング

代表取締役 

オーナー社長を対象に、「信託」を活用した事業承継や財産保全、さまざまな金融的打ち手を指南する専門家。経営的な意向と社長個人の意向をくみ取り、信託ならではの手法を駆使して安心と安全の体制をさずけてくれる…と定評。

「大学生の甥っ子と酒を飲んだけど、楽しかったよ。おじさんまた飲みに行こうといわれて嬉しかったね」と、2代目のB社長。久しぶりに創業者の父親の家で実妹夫婦と一緒に新年会をやったそうです。

 

1.親族(ファミリー)と経営(ビジネス)

B社長のご両親は他県の出身ですが、創業者の父親が東京に出てきたため、祖父母が逝去した後は、親族との交流は少なくなりました。甥っ子達と会う機会があるのも、創業者の父親が存命中かな、という思いを強くしたようです。

B社長には実妹が1人いて、家には娘が2人。B社長の実妹の家には息子が2人。つまり、創業者の孫は計4人となります。

コロナ禍の影響で実妹家族との接点も減っていただけに、久しぶりの3世代揃っての新年会でした。B社長は今年成人式を迎えた甥(次男)から声をかけられて嬉しかったようです。

B社長のビジネスは堅調に推移していますが、娘2人はビジネスにあまり関心がない様子。妹夫婦は士業の専門職ですので、B社長のビジネスとは関係がありません。大学3年生の甥(長男)はこれから就職活動です。

新年会で杯を交わす中で、B社長は改めて自分の次の世代のことを考えたようです。B社長の話によれば、「長女はおっとり文芸肌で、次女はスポーツ好きな活発系」ということでした。

B社長は娘たちに、「就職は君たちの自由だよ」というスタンスとのこと。ただ、大学生となった甥っ子達の成長ぶりを見て、色々と感じることがあったようでした。

同族会社(ファミリービジネス)の経営では、ファミリーとビジネスが両輪です。ビジネスの環境も変わりますし、ファミリー同士の関係性も年を経るごとに変わっていきます。

取り止めもない雑談の中で出てきたお話でしたが、将来に向けて重要なことと思い、話を続けました。

2. もし娘に継がせるとしたら

今のところB社長は、娘に継がせたいという意識は強くありません。そもそも娘が後継者向いているか? という点については、面白い研究があります。「跡取り娘」を3つタイプに分類して、それぞれ傾向を分析しています(注)。

 

【3つのタイプ】

①「父親の世話役」:父親に対して従順なタイプ

②「財産の消費者」:父親から自立しようとするタイプ

③「王の財産の番人」:父親のサポーターとなるタイプ

 

①の「父親の世話役」タイプの場合、父親や既にある仕事に対して従属的になりがちです。世話役ではなく、新たなことに自ら取り組むことが苦手な傾向があります。

②の「財産の消費者」タイプの場合、父親と対立してしまうことがあります。自分の意見が父親と異なる時でも、自分の関心がある方向に突き進むことがあります。

③の「王の財産の番人」タイプの場合、父親に従属せず、かつ対立しない関係性です。父親とビジネスを継続しながら、自分のスタイルを形成していくことができます。

 

③のタイプが望ましいのは確かですが、簡単ではないですね。B社長の家は、長女が①で次女が②かな、とのことでした。③を目指して後継者育成に育成するかはこれからの判断、という状況のようです。

一方で、かつての日本は家制度の枠組みの中にありました。家制度の中で承継する仕組みといえば「婿養子」です。養子にならないまでも、娘のパートナーが後継者になる可能性もありますね。

上場しているファミリービジネスの研究として、「婿養子」が後継者になった場合の経営成績は、「創業者と血縁のある後継者」より良いとの報告があります。孫より婿養子の経営の方が経営成績の結果が良い、というのは興味深い結果です。

今後、B社長は娘や甥の成長を見守りながら、ファミリービジネスをどの方向に持っていくのかを探ることになります。

 

3.同族会社(ファミリービジネス)のマネジメント

経営の承継は終わっているB社長ですが、資産の承継はこれからが本番です。そして、もう一つ大事な点があります。「創業者の父親が存命だから、ファミリーで集まる機会がある」ということです。

今の世の中の流れでは、ファミリーとビジネスは別物である、という考え方が強いように感じます。しかし、欧米での研究結果は、今ではファミリーとビジネスを一体として考えることが主流になっています。

「自分が育ててきた会社を次の世代へと繋いで行く」経営であれば、ファミリーとビジネスの永続性を考えなければなりません。もっとも、「育てた会社を売り飛ばしてお金に変える」経営であれば、ファミリーとビジネスは別物で構いません。

会社の価値というと、相続税評価などの税務的な観点、売却価格を決めるM&Aの観点などは関心を集めます。しかし、会社を継続していくのであれば、貸借対照表(B S)に乗らない価値にこそ、注目すべきだと思います。

そして、自社株を承継あるいは売却などのイベントがあった場合ですが、オーナー社長のその後のライフプランやファミリー全体の関係性について、充分な検討や配慮がなされているでしょうか?

我が国では、家(イエ)制度という仕組みが崩れて、核家族化、単身世帯化が進んでいます。資産の承継も、長子相続でなく均等相続が原則になるので、後継者に自社株式を承継することも大変ですね。

そうなりますと、自社株式を後継者が単独で持つことは難しく、ファミリー内に自社株式が分散します。分散しないまでも、会社と経営者、あるいは家族や親族の資産が混在してしまうことは起こり得ます。

これまで経験した実務の中で、オーナー社長がいれば起こり得ない相続トラブルを何件も見てきました。もっと早くご相談頂ければ、波風はたったとしても、深刻な事態にはならなかったかもしれない、と思ったことは少なくありません。

B社長は創業者の父親が元気なうちに、実妹ファミリーと定期的にコミュニケーションをとる工夫を始めました。大袈裟なことではなく、何かのついでにコミュニケーションをとる、それだけです。

それだけでも、ファミリーガバナンスの第一歩になります。そして、ファミリーとビジネスのそれぞれにおいて、共通言語、共通体験、共通認識などの理念や価値観のベースとなるものを蓄積していくのです。

 

【まとめ】

ファミリービジネスには、経営の承継、家族の承継、資産の承継が必要と言われます。これらの承継には手間と時間がかかりますし、面倒くさく感じるものです。しかし、手間や時間をかけない仕事に、良い仕事があるのでしょうか?

「跡取り娘」を期待するなら、その意思を早く伝えるべきです。伝統芸能の承継と同様、早いうちから準備することが肝要だからです。「甥っ子」にしても同様です。球を投げないと、返ってきません。

コミュニケーション仕方も、リアルに会わずに済む時代となりました。だからこそ、リアルに会うことの価値があります。盆暮正月、法事、などの定期的な接点は、ファミリービジネスのマネジメントに必要不可欠なのだと思います。

蛇足ですが、ファミリーガバナンスに信託の活用を検討してみてください。信託を使わないのもありですが、資産の管理、運用、承継の全てに対応できる道具が信託です。信託を使うかどうか、更に、信託をどう使うかは、アドバイザーの知恵次第かもしれません。

 

 

 

(注)

Dumas,C.A.(1990). Preparing the new CEO-managing the father-daughter succession process in family business. Family Business Review ,3(2),169-181.

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