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社長は覚悟すべきなのか?業務の属人化の功と罪

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

「業務の属人化(特定の人に依存する業務遂行)は社内業務のデジタル化の大きな障壁になる」ことは世に言われることですし、本コラムでも多くの文字数を費やして解説してきました。しかし・・・です。特にスタートアップのような会社が、成長し規模拡大する過程では、初期段階である程度属人性は許容せねばならぬ場合もあります。

例えば、会社がまだ小さいうちに、一人何役もこなさなければならないような場合、属人化を廃するがために標準化や平準化の優先順位を高くすることなど到底できません。まずは足元の業務を少ない人数でこなし、なんとか成長の基盤を構築せねばならないことは言うまでもありません。

しかし、「ある一定の段階」に到達した場合に、その属人化した業務をなんとかしなければならなくなるのです。感染症流行の件で客船が港に足止めされていたころ、私はある強烈な経験をしました。某医療系用品の卸問屋の社長からご相談を受けたときのことです。社長は「受注担当と出荷担当の業務が古くからいるパート社員数名に属人化してしまっており、業務の拡大ができない」という長年の悩みをお持ちでした。私からは「それを解決するためには、どうしても業務の可視化が欠かせない」というアドバイスをさせていただきました。社長はそれを理解したのですが、どうやら現場のこれらのパート社員にトップダウンで可視化作業を指示できないお立場の様です。「現場の人たちを集めるので鈴木先生から可視化の必要性を説明してもらえませんか?」というお願いをされました。

まぁ、このようなケースはいくつも経験してきたのでお引き受けすることとし、別の日に3名ほどの担当者を集めていただきました。そして、「皆さんの業務を楽にし、残業をなくしたり好きなときに年休をとれるように業務を可視化する必要があります」といった説明をさせていただきました。その場では皆さん納得されているご様子でしたが、後日社長から「現場の人たちが、今の業務は今のままで回っているので、わざわざ手間をかけて可視化する必要は無い、と言ってきました。現場がやってくれないと私は何もできないので、残念ですがこの話はここで終了にさせていただきます。」という連絡を頂き、その会社での私の仕事は終わってしまいました。

中途半端で仕事が終了してしまったので、釈然としない思いをしましたが、その数カ月後、例の感染症で緊急事態宣言を迎、ワクチンの集団接種体制の構築が急務で、そのためにはワクチン以外にも注射器などの医療用品の手配が重要だ、という話になったとき、その社長がテレビに登場し窮状を訴えている姿を見かけました。社長の話では「仕入れはなんとか頑張っているんです。でも急に今までと桁違いの発注が来て、仕分け作業の方が回らない。倉庫も人手もパンクでもう限界です。」とのこと。現場の人たちの話を聞いていた私としては、その「無理」という状況をすぐに理解できました。と同時に、いくつもの思いが頭をよぎったのです。

・あのとき可視化作業を進めて、少しでも業務を標準化できていたら人数を増やすことである程度対応できていたはずだ

・社長はあのときに諦めてしまったが、そもそも会社のリーダーとして現状放置を許してしまったのは、こうなることをある程度見通せていた社長の判断ミスだ

普段はあまり脚光を浴びるような業界ではありませんでしたが、社会の要求に答えられない社長の悔しさは相当なものだったことでしょう。

この会社では「受注の急増」という事象によって先述の「一定の段階」に急に到達してしまった格好になりましたが、急増でなくとも会社が成長すればいずれその段階には到達します。受注が徐々に大きくなるとともに「一定の段階」に到達し、属人性によってその段階を超えることができなくなるケースです。これは、会社の成長の限界を構成してしまうので、社長にとっては大問題です。社長には部下から「現場はもう限界です」という曖昧な表現での報告が上がることでしょう。その原因を聞いても納得のできる話をなかなか聞けず、腑に落ちない状態が続くこともあります。

「ならば、増員を!」と通常は考えますね。ところがこのように少人数の社員に業務が属人化している場合は、いくら人員採用しても、仕事になかなか馴染めずにすぐに退職されてしまうことが高い確率で発生するのです。下手をすると新人がメンタルの不具合を引き起こし、労災に至ることもあります。「人の定着率が悪い」という言葉を多くの社長から聞きますが、それはこの問題が引き起こしている割合が極めて高いのです。

このような状態に陥っている中小企業を何回も目撃したことがありますが、社長がいくら良い処遇で人を募集しても、複雑に属人化した業務をやっている現社員にとってみれば単に「物覚えが悪い新人が来た」と邪魔に思うだけなので、解決になりません。

つまり、「属人性はある程度許容せざるを得ない場合もある」という文脈で書き出しましたが、、、

社長は業務の属人性をコントロールする責任がある

のです。属人化を許す段階のときは許し、自社の「ある一定の段階」が見えてきたら迅速にその属人性を解消する動きをとるべきなのです。あくまでも放置や現場任せはいけません。日本人の業務能力は非常に高いので、放置しても社員がなんとかしてくれますが、それに甘えてしまうのは社長として失格だと思います。

皆さんの会社ではどうですか?今のままで成長は望めますか?大口の顧客が得られた際に断らなくても対応できる見込みはありますか?少しでも不安がある場合は、「ある一定の段階」が近いのかもしれませんよ。

 

 

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