「循環経済とGX時代の新常識――炭素に値段が付く時代をどう生き抜くか
「西田さんが手がけている循環経済は実に面白い。絶対に可能性あると思いますよ。」
つい最近のことですが、研究者とコンサルタントという、立場が全く違うお二人の専門家から異口同音にそんな評価をいただくことがありました。
ここに来て、循環経済という言葉を耳にする機会がずいぶん増えました。背景には、関連する新しい法律が動き出したことに加え、国際的な標準規格の整備が進み、欧州による規制の動きも具体化してきたことがあります。日本企業にとっても、もはや“遠い世界の話”ではなくなってきたと言えるでしょう。
実際、市場を見渡してみると、企業の関心の高まりを肌で感じる場面が増えています。たとえば、製造業では製品リサイクルの再設計をテーマにした共同研究が動き始め、商社ではリユース素材を使ったサプライチェーンの構築に着手する例が出ています。自治体との連携によって、再資源化ルートを整備する取り組みも増えました。「廃棄」を前提とした社会構造から、「循環」を前提とする新しいビジネスモデルへ、静かに大きな転換が進んでいるのです。
私自身、この流れを説明するときに強調しているのが、「循環経済と脱炭素は切っても切れない関係にある」という点です。
循環経済の考え方が普及すれば、その結果として確実に脱炭素も進みます。リユースやリサイクルを進めると、それだけでCO₂排出量は減ります。しかも多くの事例で、取り組みの“ビフォー・アフター”を可視化することができるのです。つまり、CO₂削減効果を数字で示しやすい――これは企業経営にとって極めて大きなメリットになります。
この視点の背景には、来年度から本格的に始まるGHG(温室効果ガス)排出量取引制度、いわゆる「GX市場」の整備があります。
いよいよ「炭素に値段が付く時代」が到来するわけです。企業が排出するCO₂がコストとして計上される一方で、削減効果をもたらす活動には“価値”が付与される。すなわち、脱炭素への貢献が新しい利益源にもなり得るという、大きな構造転換です。欧州ではすでに炭素価格が1トンあたり1万円を超える水準で推移しており、日本でもいずれ同様の市場が形成されていくでしょう。
もちろん、循環経済と脱炭素のすべてが常に重なるわけではありません。たとえば再エネ発電所の建設は脱炭素の一例ですが、資源循環という観点から見れば必ずしも循環的ではありません。同様に、サブスクリプションによるサービス提供は循環的なビジネスモデルではありますが、直接的にCO₂を減らすものではありません。
それでも、資源循環に資する取り組みの多くは、結果としてCO₂削減を伴います。現状では、循環経済型のビジネスモデルといえば、ほとんどが資源循環を中心としたものだと言ってよいでしょう。企業にとっても、循環経済の推進は「脱炭素経営を進める最短ルート」として注目されつつあります。
ただし、現場の企業に目を向けると、「ライフサイクルアセスメント(LCA)のわかる技術者がいない」「GX人材を育てたいが、どんなスキルが求められるのかわからない」といった不安の声が後を絶ちません。新しい概念をどう社内に定着させ、どう利益につなげるかが、経営者にとって大きな課題となっています。
私の提案は、いたってシンプルです。
――社内の人材を教育し、情報整理の仕組みをつくること。
この二つを実践するだけで、確実にGX対応を進めることができます。最初から完璧な制度や専門家を求める必要はありません。大切なのは、社内での理解を深め、情報を共有する“仕組み”を整えることなのです。実際、データ整理のルール化と社内教育を組み合わせた企業では、CO₂削減の取り組みが驚くほどスムーズに進んでいます。
循環経済は、単なる環境対策ではありません。
それは、企業が持続的に成長するための「経営戦略」そのものです。
世界の潮流を見据えながら、GX市場での競争優位を築く。その第一歩が「循環へのまなざし」なのです。
GXに取り組むなら、まずは循環経済への目配りから。
ご興味をお持ちの経営者の皆さまからのご相談を、心よりお待ちしております。
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