中小企業が、採用基準を現場の言葉で「かたち」にする方法
抽象的な採用基準で採用し、現場に合わない人が入り、現場はさらに多忙になり、次の採用に関わる余裕を失う。そんな採用と現場のあいだの悪循環を断つには、採用基準を具体的な「かたち」にすることが大切です。
「各事業部に『どんな人が欲しいですか』とヒアリングしたんです。でも返ってくるのは『責任感がある人』『ちゃんと業務を遂行できる人』ばかりで。もちろんそのとおりなんですけど、これを基準に採用しても、現場ではうまくいかなくて」
先日、ある中小企業の採用活動の見直しを行いました。複数の営業支店をもつ会社で、人手不足に対応する形で各支店の採用活動を強化したい、というなかでのご相談です。採用担当の方は上記のように切り出しました。
そこから話を具体的に伺っていくと、この会社の現場で実際に問題になっているのは、次のようなことでした。
「教えたことが翌日には忘れられている」
「『パンフレットを6つの山に均等に分けて』という指示が通らない」
「大きな声で報告をすることができない」
人事の採用担当者が認識している要件と、現場で実際に困っていることの間で、だいぶ大きな乖離が起きていることが一目瞭然です。採用がうまく回らない中小企業において、その原因のひとつは、こうした採用基準の設定の仕方にあることが多い印象です。
■採用基準が現場の実態と整合しない理由
採用基準は、できるだけ具体的であるべきなのですが、どうしても抽象的になりがちです。理由は、大きく2つあります。
1つは、面接で確かめられる範囲が限られることです。1時間程度の面接で見えるのは、真面目そうか、きちんとしているかといった雰囲気まで。量の感覚や記憶力、報告の習慣といった具体的な実務能力は、この場ではほぼ測れません。結果として、測れる範囲の印象を束ねた「責任感がある人」というような抽象的な言葉が採用基準に収まってしまいます。
もう1つは、現場で起きていることが、採用側に具体的に届いていないことです。「最近入った人が仕事を覚えられない」「簡単な計算ができない」といった声は、現場での軋轢やその結果としての離職という結果として、本社の人事に届かないまま流れていく。つまり、採用担当の基準に、現場からの具体的な要求水準として持ち込まれるルートがないということです。
この2つが重なると、採用側の基準は不十分なまま更新されません。基準として機能しないまま、なんとなく感じのいい人が採用されていきます。
人数が補充されればいいと思える面もありますが、このやり方では、大きな悪循環が生じる可能性があります。
抽象的な基準のまま採用すれば、現場にフィットしない人が入ってくる。フィットしない人が入れば、現場のマネジメント負荷は上がります。教え直し、目配り、やり直しに時間がとられ、現場のリーダーは日々の業務に追われます。追われるほど、次の採用プロセスには関われない。関われないから、採用は再び人事だけで進み、基準は抽象のまま据え置かれ、また同じような採用が繰り返されていく。
現場が多忙だから採用に関われず、採用の質が上がらないから現場はさらに多忙になる。中小企業の採用が機能しなくなる根にあるのは、この悪循環です。そしてこの循環は、採用担当の努力や現場の頑張りだけでは断ち切れません。採用側と現場がすり合わせる仕組みを、採用プロセスの中に組み込む必要があります。
■悪循環を断つ、3つのすり合わせ
では、この悪循環をどこから断つか。冒頭の会社で検討されたのは、採用側と現場のすり合わせを採用プロセスの中に埋め込む、3つの施策でした。
1つ目は、現場から「こういう人だとありがたい・こういう人だと困る」という具体例を集めることです。「どんな人が欲しいですか」と聞くと抽象的な話に流れがちですが、「業務のなかで困った人はどんな人でしたか」と聞くと具体的に返ってきます。「量の感覚がない」「忘れても確認しない」「大きな声が出せない」。これをそのまま採用基準の言葉として一枚のスキルシートにまとめ、面接時の判定材料にする方針を立てました。
2つ目は、面接では見えない能力を、短いテストで確かめることです。業務に必要な基礎知識や簡単な識別能力を試す問題、計算問題、記憶力テストなどを準備しました。落とすためというより、「この人にどこまで期待できるか」という見立てを、採用側と現場で共有するための材料として使います。結果がふるわなくても、それを踏まえて配属と育成を設計する選択肢は残ります。
3つ目は、現場の責任者を採用プロセスに入れることです。小規模な事業者であればあるほど難しいですが、参加できるときに同席してもらい、現場の目で候補者を見る。予定が合わないからと人事だけで完結させない。
3つに共通しているのは、要は採用と現場のすり合わせを、採用プロセスに組み込むということです。一度きりの会話や「今回はたまたま現場も同席できた」で終わらせず、毎回の採用で必ず通る手続きに昇格させる、といえば分かりやすいかもしれません。
■「どこまで期待し、どこから諦めるか」を共有する
3つの仕組みを整えたうえで、もう一段大切なのが、「この人にどこまで期待し、どこからは諦めるか」という期待値を、採用時点で採用側と現場の間で共有しておくことです。
社員として採った人には、社員として伸びてほしい。その気持ちは自然です。ですが、「全員が同じ期待値で育つはず」と前提にしてしまうと、採用時点で見えていた個別差が配属や育成に反映されません。冒頭の会社でも、社員として採用したのに力量が伸びず、実質的にはパートと同じ単純作業ばかりを任せていた、ということがありました。本人は「社員として入ったのに」と不安をため、現場は「使えない人が来た」と感じてしまう。採用担当は、採用が終わればひと段落ですが、現場と本人の摩擦はそのまま入社後も残り、多くの場合拡大していきます。
「この人には3か月後に責任ある業務を任せたい」「この人はまず単純作業で定着してもらう前提でよい」。こうした期待値のイメージを、採用側と現場で共有してから採用を始められているでしょうか。基本的なことですが、ここが曖昧なまま進むと、本来パートでよいはずのポジションに社員を充ててしまうなどのミスマッチが生じ、その歪みは入社後に膨らんでいきます。
採用基準を具体的な姿がわかる言葉にすることは、現場で働く社員を、入社後の不要な摩擦から守るために必要です。
「使えない人が来た」と感じる主任。「社員なのにこの仕事か」と戸惑う本人。そのどちらも、採用の入口で採用側と現場がすり合わせられていなかったことの結果なのです。
まずは、現場に「過去のこういう人は難しかった」など、具体的な実例を語ってもらう場をつくる。そこから採用の基準をつくり、事例を通じて磨き上げていく。こうして採用基準が「かたち」になった会社は、採用と現場のあいだで回り続けていた悪循環から抜け出し、現場は腰を据えて育成に取り組めるようになります。
自社の採用が「かたち」になっているか、次の3つの問いで確かめてみてください。
- □ 現場で「困った」と感じた人の具体例を、採用基準に反映できているか
- □ 面接では見えない能力を、テストや現場責任者の目で確かめているか
- □ 採用した人にどこまで期待しどこから諦めるかを、採用側と現場で共有できているか
すべてにYesと言えないなら、採用の入口で揃えるべき基準が、まだ採用側と現場の間で言葉になりきっていないのかもしれません。採用と多忙な現場の悪循環を断ち切る第一歩は、現場の具体例を採用基準に持ち込むことから始まるのです。
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