「当たり前」を見える化する
「西田先生、営業と話していると、意図せずにお客さんから環境への取り組みを評価されてしまっていることが良くあるんです。でも会社としてそれを語れていないので、勿体ないことをしてるといつも思わされるんです。」
先日ご相談を承ったサステナビリティご担当の方が思わずこぼした愚痴に、私も「ああそうですよね、本来日本の会社は皆、習慣的に環境を大事にしてきたんですから。」と共感のコトバが口をつきました。
本来、こういった取り組みは会社の方針として可視化された形で発信されてしかるべきであり、特に最近はそういった空気が醸成されつつあります。
たとえば上場企業を中心に、TCFDやISSBといった国際的な情報開示の枠組みへの対応が求められるようになり、環境や人的資本に関する情報は「企業価値に関係する情報」として扱われるようになってきました。金融機関や投資家も、単に売上や利益だけを見るのではなく、「この会社は持続可能性にどのように向き合っているのか」という観点を強く意識するようになっています。
また、大企業だけではなく、中堅・中小企業に対してもサプライチェーン全体での対応要求が広がっています。取引先からCO₂排出量の把握を求められたり、再生材利用率や廃棄物削減の状況について確認を受けたりするケースも珍しくありません。
つまり今は、「良いことをしているかどうか」だけでなく、「それをきちんと説明できるかどうか」が企業評価に直結する時代になりつつあるわけです。
ただ、その一方で私は、日本企業には本来かなりの蓄積があるとも感じています。
特に老舗企業においてはもっとずっと昔から、「社会に良いことをするのは当たり前」といった文化が大切にされてきました。
地域のお祭りを支える。神社や学校の活動を陰で支援する。廃棄物をなるべく出さない。モノを長く大切に使う。従業員を家族のように扱う。近江商人の「三方よし」に象徴されるように、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という価値観は、日本の商習慣の中に長く息づいてきました。
ある意味では、日本企業は「サステナビリティ」という言葉が生まれるよりも前から、かなり自然体で持続可能性を重視してきたとも言えるのではないでしょうか。
もちろん当時は、それをわざわざ資料化したり、数値で管理したりする必要はありませんでした。むしろ「そんなことを自分で誇るものではない」という感覚すらあったのかもしれません。
しかし時代は変わりました。
今は、良い取り組みをしているだけでは十分ではありません。「見える形にして伝える」というプロセスそのものが重要になっているのです。
ここで勘違いしてはいけないのは、「新しく何か立派な活動を始めなければならない」という話ではない、ということです。
むしろ重要なのは、すでに現場で当たり前に行われている善行や工夫を、現代的な言葉で再定義し、可視化してゆくことではないでしょうか。
たとえば、工場で以前から続けている端材削減の工夫。配送効率を高めるための改善活動。地域清掃への参加。節水への配慮。あるいは社員教育を通じた技術継承。これらは社内では「当たり前」とされていても、外部から見れば十分に価値ある取り組みです。
しかし、当事者にとって当たり前すぎると、それが「評価対象である」という認識が持ちづらい。結果として、営業担当が商談の現場で初めて顧客から評価されて気づく、ということが起きるわけですね。
経営者としては、そういった伝統を大切にするとともに、可視化要求にもしっかり応える必要が生まれてきているわけです。
しかも、これは単なる広報活動ではありません。
自社がどのような価値観を持ち、どのような社会的役割を果たそうとしているのかを整理し、言語化するプロセスでもあります。見える化とは、企業理念を現代の市場環境に接続する行為だと言っても良いでしょう。
そして、そのような情報を見える形で開示することで、更に企業の評価は上がる。企業評価に責任を持つのは、まぎれもなく経営者自身でなくてはなりません。株主や投資家を意識した動きでも全く結構です。
なぜなら、適切に評価される企業には、人材も資金も集まりやすくなるからです。結果として、より良い技術投資や雇用環境改善にもつながり、さらに企業価値が高まってゆく。これは決して表面的なイメージ戦略ではなく、経営そのものの循環改善なのです。
日本企業には、もともと「社会の役に立つことを大切にする文化」があります。だからこそ今必要なのは、ゼロから理想論を作ることではなく、すでに存在している価値を丁寧に掘り起こし、社会に伝わる言葉へ変換してゆくことなのだと思います。
せっかく良いことをしているのですから、「伝わっていないので評価されない」というのは、やはり少し勿体ない話です。
わかりやすい、伝わる開示について、ぜひ一度取り組んでみませんか。
コラムの更新をお知らせします!
コラムはいかがでしたか? 下記よりメールアドレスをご登録いただくと、更新時にご案内をお届けします(解除は随時可能です)。ぜひ、ご登録ください。

