社長は黙れ!! あなたが一番の「社員の成長の阻害要因」
設備メーカーM社長が席に着きました。
私は、いつも通りに始めます。
「社長、どうぞ。」
M社長は、すぐに話し始めました。
受注の状況、大型案件の進捗、採用した社員の様子・・・
一つの話が終わると、また次の話が始まります。
近況の報告が終わったのは、30分後です。
私は、M社長にお伝えしました。
「社長、まだ治っていませんね。」
「社員が話さない」という問題
多くの社長が、社員に対して次のような不満を持っています。
「社員から意見が出ない」、「会議で誰も発言しない」、「何を考えているのか分からない」、「もっと積極的に提案してほしい」
そして、その原因を社員の“せい”にします。
主体性がない。考える力がない。会社に関心がない。
しかし、大概のケースで、それは間違いです。
彼らが話さないのは、社員の能力や性格の問題ではありません。
話す必要のない環境になっているのです。
いえ、それ以上に、話せない環境になっているのです。
子どもを育てるのは環境
子育てにおいて、環境は重要です。
幼少期の子どもは、親や兄弟など、家族という環境の中で人柄をつくっていきます。
中学生、高校生になれば、どの学校に通うのか、どんな先生に教わるのか、どんな友人と付き合うのかによって、その価値観は大きく変わります。
子どもにとって環境が大切だという考えを、否定する人はいないでしょう。
だから、親は住む場所を考えます。学校を選びます。付き合う友人を気にします。
子どもの成長にとって、環境はすべてと言っても過言ではありません。
そして、それは、新入社員でも同じです。
どんな会社に入るのか。どんな上司の下で働くのか。どんな先輩に仕事を教わるのか。
その環境が、彼らの仕事に対する姿勢や思考に、大きな影響を与えます。
これは、三十歳、四十歳になった社員も同じです。
確かに、若者ほど大きな影響は受けません。それでも、人は環境に適応し、良くも悪くも変わっていきます。
子どもについては「環境が大事だ」と誰もが考えます。
しかし、社員については、本人のやる気や能力の問題にしてしまうのです。
これは、本当に不思議なことです。
問題解決の起点はすべて環境
社員がある行動を取っているのであれば、その行動を取る環境になっているということです。
問題について考える起点は、“環境”です。
これは、肝に銘じておいてください。
考える起点は、すべて環境です。
社員が話さないのであれば、話さない環境になっています。
社員が考えないのであれば、考えなくて済む環境になっています。
社員が挑戦しないのであれば、挑戦しないほうが安全な環境になっています。
社員が失敗を隠すのであれば、失敗を報告すると責められる環境になっています。
社員の行動は、その会社の環境に適応した結果なのです。
その社員だけを注意しても、何も変わりません。
仮に、その社員が辞めたとしても、同じ環境であれば、次の社員も同じ行動を取るようになります。そして、同じように辞めていきます。
変えるべきは、人ではありません。環境です。
社員が話さない会社に欠けている四つのもの
社員に話させたいのであれば、精神論を唱える前に、環境を確認する必要があります。
社員が話さない会社には、主に四つのものが欠けています。
1.話す機会がない
そもそも、社員がまとまった時間を使って話す場がありません。
会議はあります。しかし、その会議では、社長や管理者からの報告と指示だけが行われています。社員は聞く側です。
「何か意見はありますか」と最後に聞かれても、残り時間は数分しかありません。それでは、意見など出るはずがありません。
話させたいのであれば、話すための機会を先に確保する必要があります。
2.話すだけの前提がない
社員に意見を求めても、必要な情報を与えていない会社があります。
今期、会社は何を目指しているのか。なぜこの取組みをするのか。何が問題になっているのか。何を変えて、何を守るべきなのか。
その前提が共有されていなければ、社員は何を基準に話せばよいか分かりません。
発言しても、社長から「そういう意味ではない」と否定されます。
それが何度か続けば、社員は学習します。
「余計なことは言わないほうがよい」と。
3.話し合う機会がない
社員が社長に対して一人ずつ報告するだけでは、組織にはなりません。
必要なのは、社員同士が話し合うことです。
営業と製造が話す。現場と事務が話す。若手と管理者が話す。担当者同士で問題を整理する。
社員が社長に向かって話すだけでは、すべての情報と判断が社長に集まります。
それでは、社長依存の会社が強化されるだけです。
社員同士で考え、社員同士で調整し、一つの案をまとめる。その機会が必要なのです。
4.話し合うテーマがない
「自由に意見を出してください」と言われても、社員は困ります。
自由ほど、話しにくいものはありません。必要なのは、具体的なテーマです。
「納期遅れを一週間短縮するには、何を変えるか」
「お客様からの問い合わせを減らすには、何を事前に伝えるか」
具体的なテーマがあるから、社員は自分の経験を使って考えることができます。
逆に、「当社を良くするために意見を出してください」では、テーマが大きすぎます。
どこから考えればよいのか分かりません。
多くの場合、意見を出せるほど、問いが具体化されていないのです。
社長が話している限り、社員は考えない
社長は、社員よりも会社のことを考えています。
経験もあります。当然、情報も持っています。そして、判断も早い。
その結果、答えも見えます。
そのため、社員の話を待つことができません。
社員が少し黙ると、すぐに社長が話し始めます。
「私が思うには……」「原因はこれだよ」「こうしたほうが早い」「前にも同じことがあった」確かに、社長が答えを出したほうが早いのです。
しかし、それを続ければ、社員は考えなくなります。
正確に言えば、考える必要がなくなります。
社長が状況を説明する。
社長が問題を見つける。
社長が原因を分析する。
社長が答えを出す。
社長が次の行動を決める。
社員は、その指示を実行します。
この分業が完成します。
社長は考える人。社員は言われたことをやる人。
その状態をつくっておきながら、社長が社員に向かって「もっと考えろ」と言っても無理があります。
社員からすれば、考えている間に社長が答えを出してしまうのです。そして、社員が出した答えよりも、社長の答えのほうが正しいのです。
それであれば、最初から社長に答えを聞くほうが効率的です。社員は、その会社の環境に正しく適応しているだけなのです。
社長は沈黙せよ
社員に話させたいのであれば、社長は沈黙に耐えなければなりません。
質問をして待つ。すぐに言わない。また質問をする。
途中で口を挟まない。そして、出た意見を、別の社員に渡す。
社長が黙ることで、初めて社員の思考が動き始めます。
社長が話している以上、彼らは口を開かないのです。
社員を変えたいのであれば、まず社長が変わることです。
これは仕組みの問題ではありません。
社長という環境の問題です。
社長が変わらなければ、どんな仕組みを導入しても、社員は変わりません。
社員に話させろ。
そのためには、社長は黙れ、を覚えなければなりません。
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