透明資産経営|あの人がいないと回らない会社は、なぜ、ある日突然もろく崩れるのか?
こんにちは!企業の空気をおカネに変える専門家、透明資産コンサルタントの勝田耕司です。透明資産とは、業績に影響する「空気感」を意図的に設計し運用する仕組みのこと。透明資産を取り入れた透明資産経営は、お客様との絆が深まり、従業同士の信頼関係が築きあげられ、商品・サービスの独自性が強化されます。そして、持続的成長につながる経営の仕組です。
ーあなたの会社にも、一人はいるはずです
どの会社にも、たいてい一人はいます。「あの人がいないと回らない」と、誰もが認める社員が。その人は、お客様の事情を誰よりも把握しています。難しい案件も、なぜか丸くおさめてしまう。トラブルが起きれば、真っ先に頼られる。お客様の中には、「あの人はいますか」と、名指しで訪ねてくる方すらいる。──社長にとって、その人はありがたい存在です。いてくれるだけで、安心できる。
ここで、少し立ち止まって、思い浮かべてみてください。その人の席だけ、いつも電話が鳴り止まない光景を。その人が休んだ日、問い合わせが静かに積み上がっていく机を。「それは、○○さんじゃないと分からなくて」と、周りが口をそろえる、あの場面を。思い当たる顔が、浮かんだのではないでしょうか。もし浮かんだのなら、その感覚を、どうか忘れないでください。なぜなら、いま安心の源になっているその存在こそが、あなたの会社が抱える、最も見えにくい危うさだからです。
ー頼れる一人がいる会社ほど、危うさが見えない
多くの経営者は、この状態を「強み」だと感じています。優秀な人がいて、現場が回っている。何が問題なのか、と。しかし、ここに、この連載だからこそお伝えしたい視点があります。その人が回しているのは、仕事の手順だけではありません。その人は、お客様との信頼関係を、その人だけが知る勘どころを、そして周囲を安心させる空気そのものを、たった一人で背負っているのです。そして、そうした目に見えないものは、引き継ぎ書には決して書けません。
普通のコンサルタントなら、ここで「仕組み化しなさい」「マニュアルを作りなさい」と言うでしょう。もちろん、手順は文書化できます。しかし、本当に大切なもの──お客様が「あの人だから」と心を許す関係、その人が場に生み出す安心感は、マニュアルには落とせない。それは、その人という一点に流れる、目に見えない資産なのです。
つまり、頼れる一人がいる会社の危うさとは、業務が滞ることではありません。会社が、意図せずして、目に見えない資産の大半を一人に集中させてしまっている。そして、そのことに、誰も気づいていない。その人が抜けたとき会社がどうなるか──それを考えたことがあるかどうかではなく、いつ本気で考えるかだけの問題なのです。
ー「大丈夫」の裏に潜む、3つの錯覚
その人がいてくれる限り、社長は「うちは大丈夫」と感じています。その安心の裏に潜む、三つの錯覚をお伝えします。
1つ目の錯覚は、「回っているから、問題ない」という錯覚です。現に現場が回っているため、依存の危うさは見えません。しかし、回っているのは、その人が人並み外れた負荷を、一人で吸収しているからです。表面の平穏は、一人の頑張りの上に、かろうじて成り立っている。その均衡は、あなたが思うより、ずっともろいのです。
2つ目の錯覚は、「引き継げば済む」という錯覚です。いざとなれば引き継げばいい、と社長は考えます。しかし、手順は引き継げても、お客様との十年分の信頼は、引き継げません。その人がいたから離れずにいたお客様は、その人が去れば、静かに離れていく。引き継ぎ書には書けなかったものが、失われて初めて、その大きさに気づくのです。
3つ目の錯覚は、「あの人は辞めない」という錯覚です。頼りになる人ほど、辞めないと思い込んでしまう。しかし、最も多くを背負う人こそ、最も疲弊しています。誰にも頼れず、負荷が集中し、それでも「あの人なら大丈夫」と扱われ続ける。──その人の心が静かに限界を迎えていることに、気づいたときには、もう遅いのです。
ー一人に集中した空気を、組織へ流し直す
崩れる会社と崩れない会社を分けるのは、この一人に集中した目に見えない資産を、組織全体へと流し直せているかどうかです。その人が持つお客様との関係を、少しずつ周囲にも開いているか。その人の勘どころを、日々の中で他の社員が学べる場があるか。その人が生み出す安心の空気を、組織全体の空気へと広げているか。「あの人がいないと回らない」という状態は、資産が一点に滞り、組織に流れていないサインです。その滞りに気づき、流れをつくり始めたとき、会社はようやく、一人に依存した脆さから抜け出していきます。
ー崩れる前に、流れをつくり始める
では、経営者は何を変えればいいのか。その人の負担を、今すぐ軽くすることから始めてください。まず、その人が抱えるお客様や仕事を、少しずつ周囲と分かち合う。「あの人だから」を、「この会社だから」へと、時間をかけて translate していく。次に、その人しか知らない勘どころを、対話や同行を通じて、周りが自然に受け取れる場をつくる。そして何より、最も背負ってきたその人に、「いつもありがとう」と、心から労いを伝える。──こうして流れをつくり始めたあなたは、すでに、崩壊の芽を一つ、静かに摘み取っているのです。
ーその人が辞表を出す日を、想像できますか
最後に、経営者にお伝えしたいことがあります。「あの人がいないと回らない」という言葉は、褒め言葉ではなく、警報だということです。想像してみてください。ある朝、その頼れる人が、静かに辞表を差し出す場面を。そのとき、お客様との関係は、勘どころは、現場の安心は、どうなるでしょうか。もし、背筋がひやりとしたのなら、その感覚こそが、あなたが動くべき合図です。
このコラムを読み終えたあなたは、明日の朝、いつもの職場を、これまでとは違う目で見渡すことになります。そして、真っ先に、あの人の顔が浮かぶはずです。その一点に集中した見えない資産を、組織へと流し直す。それが、ある日突然の崩壊から会社を守る、最も確実で、最も静かな一手なのです。
ー勝田耕司
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