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DXに対する現場の焦りと社長の鈍感力

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

「鈴木さん、当社のデジタル化の遅れ、というか着手さえしない周回遅れ感が酷くて手の施しようもないんです・・・」と久しぶりに設定できたアルコールの席である会社のシステム課の課長の方がグチをこぼしました。その課長さんは転職して現在の仕事に就かれたのですが、前職で私と面識があり、久しぶりに一杯飲みましょうということになって話を聞いていた訳ですが、どうも現職では社長や経営層とデジタル化については考え方が相当違う模様です。

課長の話では、「当社のシステム化が相当遅れている、ということで、その人的対策の為私が中途採用された。社内システムを担当するシステム課を任されたが、やっている仕事の内容を精査すればするほど、現システムの保守運用だけに工数をとられてしまっているという現状がはっきり理解できた。このままでは、社内システムを進歩させるどころか、商品やサービスを含めた会社全体のデジタル革新が全く進まない。社長や担当役員に話しをしても、商品力にあまり大きな不満を持っていないらしく、関心を持ってくれない。これでは停滞してしまい、世の中から更に取り残される…」といった不安を持っておられました。

元々その課長とは前職の時、IoTやAIの話で盛り上がったことがありますので、現在はそのようなテーマが全くなく、単純に業務システムの面倒ばかり見させられているので、心底つまらないと思っているのでしょう。「DXに全く取り組もうとしない」という不満が出てくるのはある程度当然のこととも思います。

しかし、彼の話を聞いていて大いに気になったのが、「社長はDXに関心が無い」と決めつける話しぶりでした。要するに、課長は「システムはシステムでやるが、DXにも取り組んでもらわないと」と社長に主張している訳です。私はIT系のバズワード(はやり言葉)にいつも懐疑的なのですが、世間一般的にここ2年ほどで、「DX」と「ITやシステム」という二つのキーワードを別物と認識されている様に思えています。「IT」は「情報技術」のことですし、「システム」は「データを扱うソフトウェアとそれを活用する人達の仕事や手順」を意味しますが、「DX」はそのいずれでもなく別のものであって、「会社として特別に取り組むべきもの・大がかりになりそうなイメージなので大企業が取り組むべきもの」なのだ、というぼんやりした概念みたいなものが広まってしまっているのではないかと。従って、「当社はシステム改善は行うがDX化はやらない」という一見してよくわからない話がまかり通ってしまっているのではないかと思うのです。

もちろん、現状システムのお守りだけで忙殺されている課長の意見を否定するものではありませんが、課長のこの表現は社長の立場では「社長に対してDXという新たな取り組みを求めている」と写っているのではないかと思うわけです。もしそうだとすれば、限りある会社のリソースをどの領域にどれだけ配分するのか、という社長の裁量の中で「新たな投資領域が増えたのか?」、「タダでさえ忙しいし余裕が無いのに、もっと別のことにチャレンジしろ、というのか?」という理解となってしまい、課長が想像するほど簡単に方針を出せなくなります。

しかし冷静に言えば、「デジタルの技術を使って会社を変えてゆく」という目的はDXであろうがITであろうがシステム化であろうが、その本質はあまり変わりありません。きちんとやるべきデジタル化を進めれば、それは会社の変革や顧客価値改革に繋がるものだからです。

現場の代表であるこの課長の危機感、それを社長に「DX」という新たなワードを使って煽ってしまうが故に、社長の鈍感力が現場の焦りを更に増長している。この関係性をきちんととらえ、会社ごとの身の丈にあったデジタル化を地道に進めるのが、中小企業のとるべき道だと思いますし、この件の課長も話し方には充分注意してみた方が良いと思うわけです。

 

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