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日本のIT人材は本当に不足しているのか?

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

政府・行政といい、中堅~大企業といい、日本の人材不足は加速する一方で改善の兆しは当面見えないのでしょうけれども、「IT人材が足りない」という官民共同の大合唱?にはちょっと疑問に思われることが目に付きます。絶対的な人数が足りないのは認めますが、ITの人材が足りなく採用もできない、というのは何かを勘違いされているのでは?という想いで一杯なのです。

誤解を招く覚悟で申し上げれば、日本の企業は「IT人材が採用できない」のではなく「既存社員のIT人材への転換ができていない」ということに他ならないと思うのです。「それが難しいからこんな問題が大きくなっているんじゃないか!」と怒られそうですね。そうお怒りになる前に、まず「IT人材とは何か?」を定義して議論できるようにしましょう。

一言でIT人材と言っても何種類かあります。当社ではIT人材を二つのカテゴリーに分類しており、それを「技術寄り人材」と「業務寄り人材」と呼んでいます。前者の「技術寄り人材」とは以下の様に定義されます。

・技術寄り人材

(1)プログラムが書ける

(2)ネットワークインフラを構築・維持できる

(3)(1)や(2)の人達からなる組織をマネジメントできる

(4)経営層とIT組織の間に立つミドルマネジメントか”技術系CIOやCTO”

マスコミでは「IT人材が足りないからプログラミングに力を入れる」という趣旨の記事が多く目に付きますので、世の中で言われている「不足しているIT人材」とは上記(1)~(4)に定義しているのでしょう。

さて、ここで大手企業の経営者のお言葉を少し借りてみます。会社名を出すことはここでは控えますが文脈は実際の発言や発表に忠実に即しています。

大手家具代理店A社:過去何回も外部にシステム発注したが、作りたいものが唯一無地のものなので全部失敗した。だから独自にIT人材を採用して自社で開発する

巨大ITソリューションプロバイダーB社:全社統合で社内(社外ではない!)のデジタル化を推進するために既存社員を教育しなおしてIT人材を数千人増やす

大手ゼネコンC社:仕事や売り物の仕組みを抜本的に改革したいのに社内でDX推進ができる人材が足りない

こんなところでしょうか?皆さんもどの会社の社長が発したお言葉か思い当たるものもあると思います。

さて、ここでこれらの「IT人材」とはどのような人を意味しているかちょっと冷静に考えてみましょう。皆さん社内のIT化のことを憂えていらっしゃることは共通しています。ところが、これらの発言の中に一つも技術寄りの単語は使われていないのです。これら経営者の共通の困りごとは丸めて表現すれば「デジタル化の為に社員の立場で自分ゴトとして進めることが出来る社員が足りない」ということになると思います。つまり、「デジタル化プロデューサーとそれを支援する組織構成人員」が足りないということを意味しているのです。ということは、当社でカテゴライズしているもう一つのIT人材である「業務寄り人材」が足りていないということと同義です。それは・・・

・業務寄り人材

 ①業務や商品を知り尽くしている

 ②社内文化や成り立ち、組織の構造を熟知している

 ③会社の方針や経営課題を理解し咀嚼できる

 ④それらを最新のデジタル技術を使って解決するための解決方針を立てられる

となります。①から③については、言わずもがな、ベテラン社員の中で「これは!と思われる人材、またはその予備群」ですね。御社にもいらっしゃる普通の優秀な社員達です。問題は④ですが、これも数名以上の会社であれば必ずいます。特にデジタルネイティブな20代~30代の社員が数名いれば、その中にレベルの差はあったとしても必ずいるはずです。見つかったとしてもその人がリーダークラスではなくても問題ありません。①~③のスキルを持っている人材の補佐として付ければ良いのです。

中程でA社~C社で例示した「社長から見て必要とされるIT人材」のお言葉をあらためて①~④のスキルで関連付けると・・・

A社は③と①を熟知している社員が外部ITベンダーにきちんと要求を伝えることができれば失敗しないで済むはず

B社は会社が大きすぎて①や②が縦割り構造になっており、閉塞感が出ていただけなので部門の壁を越えて①~③を身に付けさせないとだめ

C社はそもそもIT人材の本質を理解していないため、無い物ねだりをしているだけに過ぎない

という分析になるでしょう。特にA社はとても心配で、おそらく「(技術寄りの)人材が思う様に採用できない為に計画が頓挫した」と数年後に噂される可能性が極めて高いと思います。その数年間のブランクはこの会社の経営に致命的な停滞を招くと予想しています。「技術寄りではなく業務寄りの人材を集めて組織化し権限を持たせる方向に早く転換して欲しい」と思っています。ちょっと話が刺激的すぎたかもしれませんが、要するに「誤解の多いIT人材の定義をきちんと見直して咀嚼し、自社に当てはめた際に本当に社員もしくは社員の再配置でまかなうことはできないのか、今一度見渡してみる」ことが必要なのです。

かくいう私も、実はシステムエンジニアの経験はありません。学生のころに若干プログラミングを勉強しましたが、就職してから育んできたのは④だけで、それ以外の①~③のスキルは会社の実務経験の中で鍛えられ、社内組織変更の際に偶然全スキルを使うIT組織に異動したために芽生え(?)ることができただけです。そのような経験を通じて、どんなものを作るべきかきちんと定義し、それをシステムエンジニアに伝えきる仕事に徹し、それによって会社の成長を支えることができたと自負しています。

日本の企業のITに関わる経営方針は間違いだらけです。特に人材のことについては本コラムで論じた様に考え方の根本から間違えています。皆さんの会社の中にもきっと①~④のスキルをバラバラでも持っている社員がいて、それらを組み合わせチームにすれば良いIT組織を構成できる予備群がいるに違いありません。その潜在的な能力を見いだして光の当たるところに引き出せるかどうかは経営者次第です。

 

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