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CES視察で不安を感じたクルマの未来

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

今回もCES視察の話題で、クルマにフォーカスを当ててみます。CESは巨大自動車ショーという様相を呈してきています。残念ながら今年はほとんどの日本メーカーが出展していませんでしたが、欧米各社を中心に派手な演出が試みられていました。まず感じたのは「EVへの移行」はもはや話題ではなく、前提とした展示やスピーチが主流だったということです。どの会社も「車のデジタル化」による新しいモビリティとしての魅力付けに腐心していますが、残念なことに、これといった決定打をどこも持っていない様でした。

どの会社からのメッセージも総じて言えば、「クルマに乗ることで新しい体験を得られるように、クルマ自体の位置づけを単純な移動手段ではなく、なくてはならない何か、にする」といったところでしょう。なにやら抽象的ですね。具体的に各社の展示やキーノートを見てみましょう。

例えばBMWは、自動車に乗ることをエモーショナルな体験と位置づけ、往年のドラマ「Knite Rider」に登場するAI搭載のスーパーカーKnite2000(通称キッド)の実物モデルを登場させつつ、音声応答AI”Dee”のお披露目を行ったり、外装の色をE-INKでリアルタイムに変化させることもできる様なコンセプトカーを登場させていました。Deeは人間の会話の相手ができるレベルを目標としているとうかがえますが、外観の色が変化することも含めて、自動車を良き相棒とすることを目標としています。機能面では、ヘッドアップディスプレイの進化によるMRをUIとし、自動運転への布石としていました。お叱りを覚悟で断言すると、キーノートのショー化には成功していたと思いますが、心に残るものが全くありませんでした。クルマの外観の色が変わったところで、おしゃれ以外の何者でもないですね。

ステランティスは、ソフトウェアの投資にフォーカスを当てることを宣言。自動運転では不要となるステアリングをしまえるコンセプトを紹介し、「ボタンやノブの一切無いモビリティ」の紹介を行っていました。ステランティスグループの中にはピックアップトラック専業のブランド「RAM」がありますが、現在のEVではバッテリーの重量が大きすぎることによりトラックとしての機能が損なわれてしまうことを取り上げ、この問題解決を彼らの大きな技術的チャレンジに設定していました。

具体的に目立った解決策は提示されてはいませんでしたが、コンセプトモデルRAM1500を登場させ、フラットにバッテリーを積むことで荷台スペースもフラットになるようにし、積載量を高める工夫を紹介していました。非常に完成度が高いデモでしたので、量産車に近いモデルなのかもしれません。

なお、充電については「Battery Experience」と呼び、充電の利便性を上げる為の取組の一つとして、ロボット掃除機の様な形のロボットが自動的にガレージの床を這い回り、クルマと自動接続させることを提案していました。送受電部分を上下させて接近させることで充電効率を高めているものです。これも「充電の負担感を少なくすることが出来るかな」というレベルで決定打にはなりそうにありません。

メルセデスは、キーノートスピーチはありませんでしたが、自動車を総合的なメディアとして位置づけることを考えているようで、今後サブスク型コンテンツを受信・再生するための機械としてのクルマに変化させる構想の話をしていました。

事前評判の高かったソニー&ホンダは、コンセプトモデルAFEELAを発表しました。内部が大型ディスプレイだらけの乗用車、といったイメージで、これもデジタルコンテンツをサブスク型で配信することをベースとして考えています。ソニーがやることですから、車内エンターテイメントについては充分な作り込みをしてくるとは思いますが、だからといって有力な選択肢になるとも思えませんでした。

こう見てくると、「自動車をスマホにする」というテスラが従来から持っていた考え方を各社が延長させているという印象が残ります。ただ、その場合スマートテレビやスマホとの棲み分けが曖昧になるため、自動車でなければならない必然性の開発が必須であることを、どのメーカーも良く理解していて、それを解決するためにもがいているのだ、と思いました。

しかし、その為のしかけについて強い柱となるコンセプトの打ち出しに成功している会社は見当たりません。どの会社も現段階では全方位で試行錯誤している最中であり、なかなか腹落ちするソリューションを決めかねている様に思えました。「運転して楽しいクルマ」に魅力を感じてきた昭和世代の私としては、なにやら不安な未来を感じてしまいます。

厳しいことばかりを並べてしまいましたが、それでも業界のキーワードは徐々に絞り込まれてきており、「移動に伴う必然性のあるコンテンツの提供や体験」と「閉鎖空間であるがゆえの利点」に集約してきていると思えます。この方向性の内外で「革命的な何か」がおこることを期待して止みません。

 

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