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社員のデジタル・リスキリングの進め方を考える

鈴木純二
SPECIAL

顧客接点強化による成長型IT導入コンサルタント

ベルケンシステムズ株式会社

代表取締役 

顧客接点の強化を軸に、業績に直結するIT導入を指導するスペシャリスト。世に無駄なIT投資が横行するのと一線を画し、顧客の利便性向上、新規取引先、深耕開拓、利用促進…などを主眼に置いた、実益のIT活用と投資戦略を、各会社ごとに組み立てることで定評。

鈴木純二

「リスキリング」…。この言葉が政府より出てきたのは2022年秋のことです。正確にはもっと前から議論されてきたことだと思いますが、実際に予算措置まで含めて踏み込まれたのはこの時期ですので、報道で広く告知されたのもこの頃でしょう。リスキリング、すなわち学び直しですが、「どうして素直に学び直しというわかりやすい日本語を使わなかったの?」と苦言を呈することはいったんやめておくとして、文脈では「デジタル人材を増やす」ことが主要目的の一つとして設定されていることは事実だと思います。この「デジタル人材」という見方について、改めて斬り込んでみようと思います。

まず、会社組織における「デジタル人材」ですが、大きく2つに大別されます。1つ目(以下前者と呼びます)が「技術者」です。プログラムが書けたり、パソコンやサーバー・通信機器の設定が出来たり、という知識を持った人材です。「リスキリング」という言葉とともに語られるケースでは、このパターンの認識を持たれている方が大多数であると思います。この手の人材は、ソフト開発会社でも引く手あまたですので、特に理工系の若い学生さんは、この「技術者」を目指して勉強されていると思います。企業の中でも、この関係の教育プログラムを用意し、社員に受講を促しているところを多く見かけます。

そして2つ目(以下後者と呼びます)が「デジタル技術応用者」です。この言葉は私だけが言っていることなので、検索しても出てきません。これを目指して勉強するカリキュラムも見当たりません。平たく言えば…、

・特に高度なプログラムを組めるとか、設定ができるといったプロではない

・一通りのデジタルトレンドについて、浅いが広い知識がある

・会社の向かっている方針や課題を把握できていて、それを解決するモチベーションがある

・これらの課題や問題を整理し、デジタルトレンドの知識をうまく応用して解決の為の計画を立てられる

という人材になります。ここで、もっとも大事なことは、

前者はいくら教育しても後者にはならない

ということです。優秀な技術者は知見を積めばどんどん優秀な技術者になると思います。しかし、それだけでは会社の方向性を左右できるほどの影響力を持てないということです。前者が増え、優秀な技術者が社内に増えれば、確かに細かな課題を解決するための小物のソフトを開発してくれたり、知見を蓄えて分析するためのデータベースを開発してくれるでしょう。しかしそれは、ソフトウェア開発業ではないその他の業種の会社では、あくまでもセミプロの範疇の仕事・もしくはボランティアになるだけで、社内プロフェッショナルにはなりません。確かにもしも「社員を複数プロレベルの技術者に育て上げ、組織化して、今まで外注していた業務ソフトを社内で開発できるようにしよう」という大きな規模で考えるのであれば前者を増やし強化することは意味があります。しかし一般的な中小企業の場合はそんな余裕はありません。せいぜい、セミプロレベルの人材が一人二人できて、その人の負担増の下に、多少利便性を高くできる、というところにとどまるのです。

しかし、後者は違います。技術者一人が習得し得る以上の広い知見を持ち、業務の課題にどのように応用できるか考えることができるリーダーです。このような人材は、複数いなくとも1、2名育てば御の字ですし、それだけで会社をどんどん改革できます。前者の人材を苦労して増やすよりも、後者の人材を1名だけでも育て上げるほうが、会社にとって大きな前進になるのです。

では、後者の人材はどうやって教育できるのか?社内のデジタル化プロエジェクトを経験させながらOJTで育てるのが一番確実ですし、このコラムでもそのような説明をしてきていますが、それ以外にも方法はあります。例えば、「業務時間の一定割合を担当業務以外の分野の勉強や調査、デジタル化商品の研究に当てても良い」というやり方です。これは大手のIT業者がその制度を持っていることが有名ですね。何かの責任を負わせるようなやり方ではなかなか得られない知見を、ゆるい制度の中で得られるようにしよう、という発想です。遠回りの様に見えますが、デジタルの業界での進歩はあまりにも早いので、とにかく人よりも早くトレンドを掴むために、重い責任を持たせずに軽く遊ぶことができる時間と、できれば多少の予算を渡してやるのが一番です。

こうして広い知見を得た社員には、会社の課題の解決方法を求めれば、いくつかのソリューションを提案してきてくれるはずです。幅広い知見を持っているので、たとえばにわかにプログラミング言語を習得した様な技術者には真似の出来ない、「複数のソフトウェアの組み合わせ」というあらわざも提案できるためです。言い換えれば、

中小企業にはスペシャリストの技術者ではなく、ゼネラリストのデジタル技術応用者が必要だ

ということになります。

以上が「リスキリング」という大きな声にかき消されがちな私の主張なのですが、経験からして間違いはありません。何しろ私を含めて当社のお客様のところでは、後者が育って会社を引っ張っているという事実があるからです。

中小企業の社長には是非お気をつけ頂きたい。「リスキリングの名の下に、デジタル技術者を増やすことは、会社にはそれほど貢献しないもの」なのです。

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