日本における循環経済とオープンイノベーションの可能性
「西田先生、やはりサーキュラーエコノミーは当社にとって重要ですわ。」まだ6月だというのに暑い日の午後、コンサルティングを受けていらしたとあるクライアントの社長さんが話の節目につぶやいたのがこの一言でした。
その日のトピックは、いつにも増して重たいものだったかもしれません。日本では昨年から今年にかけて、循環経済を推進するための新たな法律が相次いで施行されました。こうした政策の後押しを受け、大企業を中心に脱炭素を目的とした資源循環の効率化に取り組む動きが一段と強まっています。これまで一部の先進的な企業に限られていた取り組みが、いよいよ社会全体の課題として広がり始めたと言えるでしょう。
この大きな流れは、中小企業経営者の皆さまにとっても無関係ではありません。むしろ多くの企業にとって、これからの時代を生き抜くために「脱炭素」と「循環経済」は欠かせないテーマです。サプライチェーン全体でのCO2削減が求められる中、取引先や消費者からの要求はますます厳しくなっています。それに応える姿勢を示すことが、企業の信頼と市場での競争力を高める鍵となります。取引先からCO2排出量の問い合わせが舞い込むことは、もう決して珍しい出来事ではないのです。
ただし、脱炭素も循環経済も、一社単独では完結させにくいテーマです。特に循環経済においては、資源の回収・再利用・再製品化といった一連の流れを実現するためには、上流・下流のパートナーとの連携が欠かせません。たとえば、メーカーと施工事業者が協力したり、営業面で補完性の高い企業同士がネットワークを組むことで、循環の実現性とその脱炭素効果は格段に高まります。
誰か、信頼できるパートナーがいればぜひ組みたい。でもどうやってそれを探したらよいのかわからない。そんな思いをお持ちの経営者は少なくないと思います。その悩みに応えるために、例えば経済産業省は企業同士が連携を深められるように「サーキュラーパートナーズ」などの取り組みをスタートさせています。
また、連携の相手は必ずしも企業に限りません。大学や研究機関と協力するケースも増えています。こうした産学連携における最大のテーマは技術開発です。再生材の品質向上、処理技術の革新、CO2削減効果の数値化など、これまでにない技術的チャレンジが求められます。技術面のブレークスルーが達成されれば、それが新たな市場を切り拓く力となるのです。
このような企業間連携や産学連携の総称として「オープンイノベーション」という考え方があります。オープンイノベーションは、循環経済の推進において極めて重要な鍵を握っています。企業の枠を超え、多様な知恵と技術を持ち寄ることで、これまで不可能だとされてきた課題にも挑戦できるようになります。
しかし一方で、日本企業には依然として「自前主義」や「グループ会社優先主義」、さらには「株式持ち合い」といった古い慣習が根強く残っています。これらの慣習は、外部と柔軟に連携するオープンイノベーションを阻む大きな壁となっています。前例踏襲に甘んじ、新たな試みに背を向ける決断は、一時的には楽かもしれません。しかし、その「楽さ」はやがて企業の未来を脅かすリスクとなります。
今、経営者に求められているのは、既存の成功体験にとらわれず、新しい挑戦に踏み出す勇気です。循環経済に沿ったオープンイノベーションのパートナーを積極的に探し出し、新しいビジネスモデルを構築する。そうした企業にこそ、社会は生存権を認め、次世代への期待を託します。逆に、変革を拒む企業には、もはや「生き残り」や「繁栄」の資格は与えられないのです。
冒頭に紹介した会社さんも、当社仲介で新しいパートナー候補の会社さんとの面談を予定いただくことができました。循環経済の実現に向けて、ぜひ有効なパートナーシップを実現できたらと思っています。
社会が認める企業とは、有名企業・大企業ばかりというわけではなく、常に明日の新しい可能性を切り開く姿勢を持つ経営者のいる企業です。昨日の成功にしがみつくのではなく、未来を見据え、果敢に挑戦することが求められています。今こそ経営者の皆さまには、この意識を強く持っていただきたいと願っています。
特に日本における循環経済は、少子高齢化や人口減少などの社会課題解決とビジネスチャンスが交わる領域です。オープンイノベーションという手段を通じて、新たな市場を創造する挑戦を始めること。これからの時代において、社会に貢献する姿勢こそが、企業の持続的成長と繁栄を支える最大の資産になると、私は確信しています。
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