選ばれるための準備はできていますか
「西田先生、当社が取るべきスタンスについて良くわかりました。品物や技術でなく、サステナビリティという価値を訴え続けてゆくということですね。顧客から選ばれるためにはそれが必要だということで・・。」
桜もおおむね散ってしまった暖かい春の日のこと、ここ数年に渡って経営トップのスタンスをお伝えしてきた支援先の社長が、いつも私が言っている話を改めて繰り返してくれました。私も心の中でつぶやきました。そうなんです、そしてその考え方こそが明日の扉を開くんです、と。
いま世界では、サプライチェーンの選別が静かに、しかし確実に進み始めています。特に注目されているのが脱炭素への貢献度ですが、実際にはそれだけにとどまりません。生物資源の保護や水資源の管理、海洋環境への配慮、有害物質の適正管理といった環境面の対応に加えて、教育や福祉といった社会貢献、さらには人権問題への対応まで、企業に求められる要素は急速に広がりつつあります。いわば「総合的なサステナビリティ」が問われる時代に入ってきたと言ってよいでしょう。
この流れの背景にあるのが、いわゆるESG投資の拡大です。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)という3つの観点から企業価値を評価し、投資判断に反映させるこの考え方は、もはや一部の先進的な投資家だけのものではありません。年金基金や機関投資家を中心に、長期的なリターンを確保するためには、企業が持続可能であることが不可欠だという認識が基本的な要件として共有されつつあります。その結果として、資金の流れそのものがサステナビリティを軸に再編され始めているのです。
ここで重要なのは、この動きが単なる「評価」にとどまらないという点です。ESGの観点で高く評価される企業には資金が集まり、そうでない企業からは資金が離れていく。この資本の選別が進むことで、企業活動そのものが変わっていくという構図が生まれています。そしてその影響は、当然ながらサプライチェーン全体に波及します。大企業が調達先を選ぶ際にも、価格や品質に加えて「サステナビリティへの取り組み」が判断基準として組み込まれるようになってきているのです。
現時点では、この変化の影響を強く受けているのはグローバル企業や大企業が中心かもしれません。しかし、ある程度の時間差をもって、この流れは必ず日本の中小企業にも及びます。むしろサプライチェーンの末端に位置する企業ほど、「選ばれるか、外れるか」という形でその影響を直接的に受けることになるでしょう。
では、そのときに備えて何をしておくべきなのでしょうか。私は、経営トップに求められる対応は極めてシンプルだと考えています。それは、「勝負できる体制をあらかじめ作っておくこと」です。自社の強みをどこに置くのか、それをサステナビリティの文脈でどう表現するのか。そして同時に、弱みとなりうる部分については早めに対策を講じておく。このための先行投資を、いまのうちから進めておくことが重要です。
ここで言う投資は、必ずしも大きな設備投資だけを指すものではありません。例えば、CO2排出量の把握やエネルギー使用の見える化といったデータ整備も重要な投資です。環境負荷に関する情報をきちんと説明できるかどうかは、今後の取引において大きな差を生むポイントになります。また、労働環境や人権への配慮についても、社内の仕組みとして整備し、外部に説明できる状態にしておく必要があります。
そして、もしもその取り組みがデータの蓄積を伴うものであるならば、なおさら早く始めるべきです。時間の経過とともに積み上がるデータは、それ自体が競争力になります。仮に「時間の累積」と「データの蓄積」が同じ価値を持つとするならば、後から始めた人が先行者に追いつくことは極めて難しいと言わざるを得ません。これは努力の問題ではなく、構造的な差として現れてくるものです。
私がこれまで多くの経営者の方とお話ししてきた中で感じるのは、「いずれ必要になることは分かっているが、今すぐやるべきかどうか迷っている」という声の多さです。そのお気持ちはよく分かります。目の前の業務に追われる中で、将来に向けた投資に踏み切るのは簡単なことではありません。
しかし、視点を少し変えてみてください。これはコストではなく、「選ばれるための準備」なのです。サステナビリティを軸にした競争が本格化したとき、すでに準備を終えている企業と、これから取り組もうとする企業とでは、スタートラインがまったく異なります。その差は、時間とともに広がる一方になるでしょう。
だからこそ、いまこの瞬間の意思決定が重要なのです。
「選ばれるための準備」をあなたはいつ始めますか?
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