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情報開示はなぜ難しいのか

SPECIAL

循環経済ビジネスコンサルタント

合同会社オフィス西田

チーフコンサルタント 

循環経済ビジネスコンサルタント。カーボンニュートラル、SDGs、サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、社会的インパクト評価などへの対応を通じた現状打破と成長のための対案の構築と実践(オルタナティブ経営)を指導する。主な実績は、増客、技術開発、人財獲得、海外展開に関する戦略の構築と実現など。

 「西田先生、情報開示って難しいですね。」

 脱炭素に向けた情報開示をご案内しているクライアント企業の社員さんから頂いた率直なコメントです。曰く、CO2排出量の計算根拠が取引金額ベースであることから、市況によって影響を受ける余地があることについてのご懸念をいただいたものです。

 

 このようなご指摘は、ここ最近かなりの頻度で耳にするようになってきました。というのも、気候変動に関する情報開示の要求はこの数年で一気に高まっており、従来は一部の先進的な企業だけが対応していたテーマが、いまや多くの企業にとって避けて通れない経営課題へと変化してきているからです。

 

 背景には、いわゆるESG投資の拡大や、TCFDに代表される開示フレームワークの普及、さらにはサプライチェーン全体での排出量把握を求める動きなどがあり、企業としては「どこまで開示すべきか」ではなく「どのように開示するか」を問われる段階に入ってきたと言えるのではないでしょうか。

 

 そうした流れの中で、今回のような「計算の前提そのもの」に関する疑問が出てくるのは、むしろ健全な反応であるように思えます。

 

 技術的な課題として取引金額ベースの計算が市況に影響を受けるという点は広く認識されています。より正確な計算のためには、現場の情報を正確に掴み、取引金額ではなく重量に置き換えたデータを取るべきなのですが、これには相応のコストと手間がかかります。

 

 実際に現場レベルでデータを取得しようとすると、取引単位の違いや管理方法のばらつき、さらにはサプライヤー側の対応状況など、さまざまなハードルが存在することが分かります。理想的な精度を追求しようとすればするほど、現実の運用とのギャップが大きくなるという構造は、この分野においても例外ではありません。

 

 他方で「数字を開示することは、それによって生じる責任を負うことになる。」という面は確かにあり、市況によって変動するデータを「当社の確定排出量である」という言い方で開示するのはなかなか難しい、ということが言えます。

 

 この点については、単なる技術論ではなく、むしろ企業としてのスタンスに関わる問題として捉えた方が良いのかもしれません。どこまでの精度を担保し、その前提条件をどのように説明するのか、さらにはその説明に対してどのような責任を引き受けるのかという点は、いわば経営判断そのものだからです。

 

 いわば簡便法として認められた取引金額ベースの算定は、それだけ手軽な選択肢ではあるので、これをベースに重点的な部分のみ重量ベースの数値に置き換える、というのが現実的な選択肢と言えるのかもしれません。

 

 ここで重要なのは、「完全な正確性」をいきなり目指すのではなく、段階的に精度を高めていくという考え方ではないでしょうか。すべてを一度に解決しようとすると、コストや体制の面で無理が生じやすく、結果として取り組みそのものが停滞してしまう可能性もあります。

 

 その意味では、まずは開示を行い、その中で課題を認識し、次のステップで改善していくというプロセス自体に価値があるとも言えそうです。

 

 いずれにせよ、開示に際して慎重かつ正確な説明が求められる情報であることに違いはありません。それを顧客に伝えるための手段やタイミングもまた、慎重に検討されるべき・・ということになると、「開示って難しい」という感想が出てくるのも無理ないところなのかと思います。

 

 ただ一方で、少し見方を変えてみると、この「難しさ」そのものが、企業にとって新しい価値を生み出す余地になり得るのではないかとも感じています。

 

 たとえば、どのような前提でデータを算出しているのか、その精度にはどの程度の幅があるのか、そして今後どのように改善していこうとしているのか、といった点を丁寧に説明することができれば、それは単なる数値の開示を超えて、企業の姿勢そのものを伝えるメッセージになるからです。

 

 選択肢を常に比較検討しつつ、最適解を求める努力を続けること、それを含めた情報開示を通じて、データそのものに加えて会社としてのスタンスを読み手に理解してもらうこと、同じスタンスで継続的な開示を行うこと。良い情報開示は、まずこれらの方針をしっかりと自分のものにするところから始まります。

 

 情報開示というと、どうしても「何を出すか」という話に意識が向きがちですが、実際には「どのように考え、どのように伝えるか」というプロセスにこそ価値を生み出す力がある、ということなのです。

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