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オーナー社長の権威と権力

SPECIAL

「信託」活用コンサルタント

株式会社日本トラストコンサルティング

代表取締役 

オーナー社長を対象に、「信託」を活用した事業承継や財産保全、さまざまな金融的打ち手を指南する専門家。経営的な意向と社長個人の意向をくみ取り、信託ならではの手法を駆使して安心と安全の体制をさずけてくれる…と定評。

「大事なのは売上の金額じゃなくて、利益率だよ」とK社長。若手社員は名門会社から契約が取れるとあって鼻高々です。しかし、案件の概要を聞いたK社長は受注をストップ。若手社員を諭しながら、次なる手立てを指示しています。

 

1.今風な威厳

「お客様が売るべき商品、サービスを教えてくれる」が口癖のK社長。若手社員が訪問していた名門企業から商談が来るのも見越していました。若手社員が報告する商談内容も想定内です。利益というより、採算を取るのも厳しい内容です。迷わず名門企業との取引をすることでなく、若手社員の教育のようです。

K社長の佇まいを身近で見ていますと、威圧感もなく静かに時が流れていく印象です。淡々と時が流れる中で社員が相談にいくとスパッ、スパッと判断が下されます。

K社長の社員との関係性が現代の理想的なマネジメントの一つのパターンですね。サッカー日本代表の森保監督、WBCの栗山監督といった選手とコミュニケーションを取りながらチームを率いているタイプといえるかもしれません。

一方で、銀行員(あるいは税理士)という「カタイ世界」におりますと、組織の中においては入社年次やら役職などのラベルが貼られ、上意下達になりがちです。上司は権力と権限を持って、部下をコントロールします。

しかし、私より一回り半は離れているK社長にその雰囲気はありません。あからさまに権力を振るうことなく、組織の方向性や社員の意識をコントロールしています。威張っているわけではないのですが、いうなれば威厳というものでしょうか。

マックス・ヴェーバーはリーダーとしてのパワーの源泉を伝統的権威、カリスマ的権威、合法的権威の3つに分けて論じます。K社長は創業者ですので全てを兼ね備えた存在ですので、この後を継ぐ後継者は大変です。

やはり、事業承継とは難しいものだと感じます。

2.権威と権力

為末大さんのnoteに「権威と権力」についてコメントがありました。権威と権力について対比的に比較しているのですが、注目したのは「権威タイプのリーダーの力の源泉は感情にあり、権力タイプのリーダーの力の源泉は利得」というコメントです。

相続業務の世界にも同様の言葉があります。それは「勘定より感情」です。税理士として相続税の申告相談に乗るにあたり、相続税の節税や財産配分などの勘定より、相続人の感情を大切にしましょうという戒めです。

同族会社(ファミリービジネス)におけるオーナー社長という立場には、ビジネスにおける社長という立場とともにファミリーにおける家長という立場もあります。

「会社の長」として行使するのは権力です。一方、「家族の長」として集団をまとめていく源は権威になります。

いうなれば、「会社の社長」としての判断軸は利得あるいは勘定にあります。「家族の家長」としての判断軸は感情を慮ることにあります。

ここに事業承継の難しさの本質があります。権威と権力をもったまま社長がいなくなると、会社という組織、家族という集団の求心力が失われるために、会社と家族のいずれもが不安定な状態になります。

その不安定な状態を乗り越えるためにも指針となるべき原理、原則が必要になります。

 

3.原理と原則

原理とは、「事物・事象が依拠する根本法則。基本法則」です。
原則とは「一般の現象に共通な法則。特別の例外が起こり得ることを念頭において、一般に適用されるものとする基本的な考え方」です。

なんだか難しくなってきましたが、実は、日本国民にも関係する重要な原理が定められています。それは「厳粛な信託」の原理です。

その根拠は何でしょうか?
実は、日本国憲法の前文です。

「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。」

リンカーンのゲティスバーグの演説「人民の、人民による、人民のための政治」が元ネタと言われますが、日本の太平洋戦争、米国の南北戦争という争乱のあとの言葉だけに重みがあります。

憲法における原則は「国民主権」、「基本的人権」、「平和主義」の3つです。

平和主義という原則は、他国から攻撃を受けたときに自衛のための武力行使をするという例外がありえますので、原理にはならないことになります。

 

3.日本人の価値観

国民に由来するはずの権威や権力を嫌っているのが、日本国民です。そのことを明確に示す調査結果があります。

電通と同志社大学が「第7回『世界価値観調査レポート』-最大77か国の比較から浮かび上がった日本の特徴」として報告をまとめています。

2021年3月の報告ですが、このレポートに日本人が突出して他国と違う項目があります。それは「権威や権力がより尊重される」ことについて「良いこと」「気にしない」「悪いこと」わからない」と回答する設問です。

「良いこと」と回答した人の割合が1.9%と77か国中の77位と最低です。「気にしない」の16.8%を足した合計でも、76位の台湾の34.7%(「良いこと」が19.0%、「気にしない」が15.7%)

つまり、日本人は権威や権力が嫌いであり、他の国の人たちに比べて圧倒的に抵抗感をもっています。ちなみに、自由の国アメリカでは「良いこと」と回答する人が59%います。

実は、日本人というのは個人としてみると難しい人たちなのかもしれません。ただ、わが国の歴史を踏まえると当然のことかもしれません。

 

<まとめ>

長く続く同族企業(ファミリービジネス)に必要になのは、権威と権力、原理と原則だと思いませんか?

 

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