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BMWとVWの微妙な違いが与える大きな影響

SPECIAL

「信託」活用コンサルタント

株式会社日本トラストコンサルティング

代表取締役 

オーナー社長を対象に、「信託」を活用した事業承継や財産保全、さまざまな金融的打ち手を指南する専門家。経営的な意向と社長個人の意向をくみ取り、信託ならではの手法を駆使して安心と安全の体制をさずけてくれる…と定評。

自動車産業が基幹産業の国といえば日本とドイツ。BMW、VWはオーナー一族が存在する同族会社です。日本とドイツでは文化的な背景が異なりますので、会社の仕組み、統治方法などの法律制度は違うのですが、我が国と同じような家族問題を抱えています。

 

1.ドイツの会社は面白い

ドイツでは同族会社(ファミリービジネス)に対する社会的評価は高く、非同族上場会社などより企業イメージが良いという調査結果があるほどの同族企業大国です。

ドイツの会社を眺めていますと、日本の会社と比較してユニークです。E・メルク合資会社、ポルシェ有限会社などは違和感ありませんが、メルク株式合資会社(株式会社と合資会社の組合せ)、ロベルトボッシュ公益財団有限会社(公益財団と有限会社の組み合わせ)、など想像もつきません。

日本であれば株式会社が一般的ですが、ドイツでは有限会社形態をとる法人が最も多く、次に多いのが株式合資会社です。複雑な会社形態をとる背景には無限責任を負う出資者のリスク解消があります。

さらにドイツの同族会社の特徴として、株主として財団の活用が目立ちます。財団の活用方法も目的に応じて活用されるため多様な形態をとります。相続対策や、公益事業による社会貢献という観点もあれば、ファミリーの結束を高めるために活用されることもあります。

BMWが財団を運営しているのに対して、VWは財団を設立していないようです。

また、BMWの場合、オーナー家で会社株式の半数弱の株式を保有しています。BMWあるいは創業家にかかる財団は複数ありますが、公益活動がメインです。

一方、VW(フォルクスワーゲン)の株式の過半を創業家一族が保有しています。調べた限りでは、上記のとおり財団を活用していません。

 

2.BMWのオーナー家の相続

BMWの「駆け抜ける歓び」というキャッチフレーズが登場したのが1965年。約60年前ですが、この頃に登場した新型車が「ノイエ・クラッセ」。先日発表されたのが、次世代EVコンセプト「ビジョン・ノイエ・クラッセ」でした。

BMWの業績不振によりダイムラーによる買収提案がありましたが、BMWの個人株主や代理店経営者が廃案に追い込み、ヘルベルト・クヴァント氏が救済。今日までクヴァント家のファミリービジネスとなっています。

へベルト・クヴァント氏の遺産相続の詳細は分かりませんが、BMWの株式を3番目の妻であるヨハンナ氏に16.7%、ヨハンナ氏との間に生まれたスザンネ(姉)に12.6%、シュテファン(弟)に17.4%を遺贈しています。

BMW以外の財産も姉と弟にバランスよく配分しているようですので、基本コンセプトは均等相続のようにみえます。担当する会社や財団を姉弟に明確に分けて承継しています。

2015年にヨハンナ氏も逝去していますが、姉弟に均等に相続させて「静かな相続」をしました。

 

3.VW(フォルクスワーゲン)のオーナー家の相続

VW(フォルクスワーゲン)のオーナーはポルシェ一族です。設立当時の政府の意向を受けて「ドイツ国民車発起有限会社」が設立されます。この国民車の設計を請け負ったのがポルシェであり、今日に至るまで幾多の変遷をへてポルシェ一族の管理下に入ります。

ポルシェ創業者のフェルディナント・ポルシェの後継者は2人の子供です。姉のルイーゼ・ピエヒ(ピエヒ家)と弟のフェリー・ポルシェ(ポルシェ家)です。創業者の相続の方針は均等分割です。

創業者が仲の良い姉弟の関係を考慮したうえでの判断といわれています。当時のポルシェ車の自社株式を50%ずつ均等に相続させたうえで、合議により会社を運営していくことを求めました。

問題となったのは3代目です。ピエヒ家とポルシェ家は共に4人の子供(創業者からみて3代目)いたため、2代目のルイーゼとフェリー、3代目の8人の10人がそれぞれ10%ずつ持株会社の株式を相続します。

ところが、3代目のピエヒ家とポルシェ家の間で「お家騒動」が発生します。2代目のルイーゼとフェリーの2人が、3代目の間に入って仲裁の手立てを講じますが、逆効果となり、事態は更に悪化しました。

このため、3代目の一族はポルシェ社の経営に関与しないため、全員退社するという決定をルイーゼとフェリーの姉弟が下しました。このとき会社を去った3代目の中の一人であるフェルディナント・ピエヒが後々、VWの社長になります。

ポルシェ社の所有と経営を分離した後も、ドラマは続きます。2009年にVWを買収しようとしたポルシェ社が、リーマンショックによる買収資金の調達に失敗したため、逆にVWに買収されることになりました。

3代目のフェルディナント・ピエヒがVW社長としてポルシェを傘下におさめることになります。しかし、本質的な問題であるポルシェ家とピエヒ家の対立の構造は解消されていません。

なお、2022年9月に公開したポルシェ社の正式名称は「Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft manufactures passenger vehicles(フェルディナント・ポルシェ名誉工学博士株式会社)」です。

日本の自動車メーカーとポルシェ、VWの関係にも歴史があります。かつて、ポルシェが苦境に陥った時に救いの手を差し伸べたのはトヨタでした。

VWがスズキの株を買い占めたとき、当時の鈴木修会長が「わが社はVWの12番目のブランドになったわけではない」という名言をのこしています。

何かと話題の多かったフェルディナント・ピエヒ氏が自著のなかで日本についてコメントしています。

「私は日本に非常に感銘を受けている。勤勉さ、規律、彼ら民族の信じがたい力、結束力。称賛してやまない」

 

<まとめ>

BMWもポルシェも相続においては均等分割方針でしたが、BMW社の株式持分に微妙な差をつけたうえで、その他の会社も引き継ぐ人を明確にしています。BMWについては親族間の対立等は報じられていません。

ポルシェについては上述のとおりファミリー内の対立の問題があります。所有と経営に分離したものの、VWの買収という無謀な経営判断をファミリーとして許容することとなりました。

財団を通じた公益活動、自社株式の相続方法、所有と経営の分離の観点(VWはピエヒ氏が経営していた時点では所有と経営が一致していたことになりますが)など微妙な差があります。

特に、我が国においても相続の財産分与方法も、長子優先から均等重視への流れがあります。また、内部昇格など親族外の事業承継も増えているという事実を踏まえると、所有と経営の分離という観点も検討する必要があるかもしれません。

会社経営に頑張った社長ほど、財産の残し方に工夫が必要になります。所有は家族が主役になります。家族と会社の良い関係を仕組化するのも大切だと感じています。

 

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