後継経営者は自らの経験を次世代育成に活かす

拙著『親子経営の教科書』(マネジメント社)の出版の際、5社の親子経営企業で取材の機会を得ることができた。5社のケースから親子経営企業の経営エッセンスを読み解いた。今日はその第10話。
【後継経営者は自らの経験を次世代育成に活かす】
創業経営者は後継者育成が苦手だ。それは当然のことかもしれない。創業時から次世代に事業を繋ぐことなど想定外であるに違いない。自ら興した事業、会社を上手く運営、経営することが最優先事であるからだ。
やがて興した事業、会社が右上がりの軌道に乗り、経営がある程度安定してくる。そうしている間に時間が経つことになる。気が付くと創業してから20,30年が過ぎ、創業経営者が60代となっている。
そうなると、会社の後継者をどうするかと思い始める。多くの場合、経営者の子息、息女が後継者となる。そして、後継者が自分の会社に入社する。ところが、後継者をどのように育てればいいのか皆目見当もつかない。
私もかつて後継者であり、二代目経営者であった。私の親父の場合、後継者をどう育てるかなど考えてもいなかったに違いない。さらに言うなら、後継者を育てるという発想そのものがなかったのではないかと思う。
それこそ、親父にとって想定外の事態であったことだろう。よって、入社した私は親父からだけでなく、他の社員からも放っておかれていた。誰から何の指示もなく、何をさせてもらえるわけもなく、ただ、放っておかれていた。しかたなく、私は自分がやることを自分で考えるしかなかった。
一方、二代目、三代目経営者たち後継経営者は自らの後継者としての経験を持つ。自らの使命を次世代に繋ぐことと考えている後継経営者もいることだろう。そのためにも後継者育成は最重要事となる。
しかしながら、後継者育成は、必ずしも「自分でやらなければならないもの」ではない、ということである。むしろ、親である経営者が直接育てようとすればするほど、うまくいかないケースが多いのが現実だ。
親は子を愛し守ろうとする。子は親に必死に認められようとする。この互いの感情が介在することで、冷静な評価や適切な指導が難しくなる。だからこそ、「育成は第三者に委ねる」という発想が重要なのだ。
外部の研修機関でもよい。信頼できる幹部社員でもよい。あるいは、社外の経営者仲間でもよい。親子という関係から一歩離れたところで、後継者を鍛える環境を意図的に用意する。これは決して責任放棄ではなく、経営者としての高度な意思決定である。
自分が直接関わらないことで、後継者は一人の社員として扱われる。特別扱いされない環境の中でこそ、本人の実力が試される。そして、自分の力で評価を勝ち取る経験が、後継者の自信へとつながる。
さらに、第三者の存在は「客観性」をもたらす。親の言葉は、どうしても感情が乗る。時に厳しすぎ、時に甘すぎる。しかし第三者は違う。事実に基づき、冷静に指摘する。その一言が、後継者の心に深く刺さることがある。
もう一つ、重要な視点がある。それは「任せる」ということである。多くの経営者が「任せているつもり」になっている。しかし実態はどうか。途中で口を出す。結論を修正する。失敗の兆しが見えると、すぐに手を引き取る。
これでは、任せているとは言えない。任せるとは、「結果を引き受ける覚悟」を持つことである。後継者に仕事を任せる以上、その結果がどうであれ、最終責任は経営者が負う。その覚悟があるからこそ、口出しを我慢できるのである。
そして、後継者はその覚悟を敏感に感じ取る。「本当に任せられているのか」「どうせ最後は親が決めるのではないか」。その疑念がある限り、主体性は育たない。逆に、「これは自分に任されている」と腹に落ちたとき、人は初めて本気になる。
次世代には是非とも、「任される経験」を与えるべきである。もちろん、失敗はするだろう。むしろ、失敗しない方がおかしい。しかし、その失敗を経営者と後継者が互いにどう受け止めるかが重要だ。
なぜその判断をしたのか、何が見えていなかったのかを共に振り返る。その対話の中で、後継者は次の一手を学ぶ。育成とは、教え込むことではない。環境を整え、機会を与え、任せ、そして見守ることである。
「第三者に委ねる」と「任せる」。この二つは、一見すると消極的な関わり方に見えるかもしれない。しかし実際には、極めて能動的であり、意志の強さを必要とする関わり方である。第三者の力を借りながら、任せるべきところは任せる。
そのバランスこそが、次世代を真の経営者へと導くのである。親が育てるのではない。環境が人を育てる。その環境を設計することこそ、自ら後継者としての経験を持つ、後継経営者に課せられた最大の役割だと思う。
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