今こそ問われる「選ばれる経営」
「西田先生、選ばれるためのポイントは、何より経営者の考え方だということなんですね。」
スクリーンの向こう側で、質問者の方がうなずく様子が画面越しに見て取れます。先日、とあるインタビューで「選ばれる経営」についてお話しした時のことでした。
このやり取りを振り返りながら、改めて感じるのは、いま企業を取り巻く環境が大きく変わりつつあるということです。かつて脱炭素や循環経済への取り組みは、「コストをかけたCSR」として受け止められることが少なくありませんでした。やらなければならないかもしれないが、できれば負担は軽くしたい。そうした空気感があったことは否定できないと思います。
ところが現在では、その評価軸が明確に変わってきました。脱炭素や循環経済への取り組みは、それ自体が価値を持つものとして認識され始めています。さらには、エネルギーや資源の安定確保という観点から、経済安全保障への貢献としても注目されるようになってきました。
この変化は一過性のものではありません。むしろ、企業評価の基準そのものが書き換わりつつあると捉えるべきでしょう。私はこれまで、「サステナビリティがビジネスに価値をもたらすようになる」という言い方で、この流れをお伝えしてきましたが、まさにその局面に入ってきたのだと感じています。
もっとも、ここで言うサステナビリティは、脱炭素や循環経済にとどまるものではありません。生物多様性の保全、森林の維持、水資源や海洋の保護といった環境分野はもちろんのこと、近年では人権問題も大きなテーマとして浮上しています。サプライチェーン全体での人権配慮が求められる時代にあって、これはまさに「ラスボス」とも言える難易度の高い課題です。
こうした多様な課題に直面すると、「一つ一つ対応していてはきりがない」と感じてしまうのも無理はありません。現場の担当者の方々にとっては、終わりの見えない取り組みのように思えてしまい、徒労感が蓄積してしまうこともあるでしょう。
しかしながら、ここで少し視点を変えてみていただきたいのです。サステナビリティへの対応を「やるべきことの積み上げ」として捉えるのではなく、「経営にどのような価値をもたらすのか」という観点から見直してみる。実はこの一歩を踏み出すことで、全体像は驚くほどシンプルに整理できるようになります。
その結論は極めて明快です。サステナビリティへの取り組みがもたらす最大の価値とは、「選ばれる会社になる」という一点に集約されます。
サステナビリティの分野では、「License to operate(操業するための許可)」という言葉が使われます。これは単に法令を遵守するという意味ではありません。世の中から「この企業は存在してよい」「この企業と取引したい」と認めてもらえる状態を指します。
そのためには、自社のみならずサプライチェーン全体において人権を尊重し、ガバナンスを可視化し、環境や社会への影響に配慮した経営を実践する必要があります。一見するとハードルが高そうに見えますが、日本企業の多くはすでにその基盤を持っているのではないでしょうか。
例えば、省エネへの取り組みやムダ取り、5Sの徹底といった活動は、現場で長年にわたって積み重ねられてきました。これらはまさに、サステナビリティ経営の土台となるものです。ゼロから何かを始める必要があるわけではなく、既存の取り組みを再定義し、価値として位置付け直すことで十分に対応可能な領域が多いのです。
では、何が足りないのでしょうか。私はそれを、「経営者の頭の中」にあると考えています。
トップがサステナビリティをコストと見なしている限り、組織全体もその前提で動き続けます。しかし、これを価値創出の機会として捉え直した瞬間に、意思決定の基準が変わります。どの取り組みを優先すべきか、どこに投資すべきか、どの市場を狙うべきか。こうした判断に一貫性が生まれ、結果として組織全体の動きも変わっていきます。
もちろん、細かな調整は必要になるでしょう。しかし、大きな方向性が定まれば、組織は自然とその方向に沿って動き始めます。幹部がそれを理解し、組織が実行する。この流れができたとき、日本企業の多くは国際的にみても高い評価を受ける存在になると、私は確信しています。
「選ばれる経営」を実現するために必要なことは、決して複雑ではありません。経営トップが自らの認識を問い直し、頭の中の前提を組み替えること。一言で言えば「選ばれる会社になる」ことのみを意識すればよい、それに尽きるのではないでしょうか。
冒頭のインタビューでの一言は、まさにその本質を突いたものでした。考え方が変われば、行動が変わり、行動が変われば結果が変わる。サステナビリティの時代においては、その変化のスピードがそのまま競争力につながります。
選ばれるか、選ばれないか。その分岐点は、すでに私たちの目の前にあるのです。
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