CESに見た今後のデジタルトレンド

毎年年頭に米国ラスベガスで開催される世界最大のテックショー「CES2025」に今回も行ってきました。私にとっては言わば定点観測のようなものであり、かつ、今後のデジタルトレンドの流れをつかむためにはうってつけの場なので、お屠蘇気分もほどほどにして出かけてきました。
毎年、このタイミングに合わせて大小様々な企業が新製品やサービスを発表し、世に送り出しているわけですが、何しろショー自体が巨大なので全部見ることは到底できません。ましてや、「これは!」と思うものに出会うことも、なかなか難しいのが実情で、そのあたりは機動力とマンパワーのあるマスコミにお任せする分野です。それゆえに、私は全体的なトレンドや、「今後どのような商品が注目されていくのか」のみに着目し、実際の会場で肌感覚で感じられることを記憶と記録にとどめるようにしています。
さて、そのような観点でCES全体を見渡すと、特徴的には次のようなことが言えます。
まず、日本からの出展や見学者が昨年に比べて大幅に増えたことが嬉しいニュースでした。会場で聞いた言語は、英語は別として、中国語・韓国語につづいて多かったのではないかと思っています。また、グループで視察されている日本人が多くなりました。コロナ以後昨年までは会場で日本人らしき方を見かけても大抵は単独行動でしたが、今年は2名から4名程度で動かれている方が非常に多くなった印象です。海外に積極的に情報を取りに行くことは、必ずその方々のビジネスに大きな影響を与えると思いますので、非常に喜ばしいことだと感じました。
次にAIの扱われ方が大きく変化しつつある、ということが特筆すべきことだと思います。昨年まではいたるところにAIという言葉がありました。今年も外見上はその状況に変化はないのですが、その内容が昨年とは様変わりしていました。昨年までは「AI入ってます」ぐらいでとどまっていた製品ばかりでしたが、今年は「XXXの機能をAIで実現しています」といった、機能を実現するためのAIに変化した製品を多く見かけました。
例えば私が今年意図して情報を集めるようにしていた、ARグラスでも、今年は「翻訳ができるARグラスです」とか「AIが音声で常にアシストしてくれるARグラスです」といったように、機能をきちんと提案してきている訳です。この傾向はARグラスだけではなく、CESに展示されている家電でもおもちゃでも自動車でも同じような傾向が見て取れました。
「機能先取り」の時期を脱し、それをきちんと咀嚼し商品の価値を高めるために最新技術をフル活用してゆく、という姿に変革してきたと言っても良いと思います。
このAIをうまく取り込んで活用している商品は、日本から出展していたスタートアップ企業の展示にも総じて同じ傾向でしたが、残念ながら数の面では中国・韓国と大きく差をつけられていました。AIの登場は、デジタル関係の商品に対して激震と言っても過言ありません。従来型の巨大IT企業といっても安泰ではありませんし、中小が巨大IT企業に打ち勝つ可能性も秘めている千載一遇のチャンスだとも言えます。もっと多くの日本企業がこのチャンスに乗じてグローバルへ乗り出す様な状況を作れれば、と思います。
もう一つ、これは日本には少しネガティブな話なのですが、いわゆるモビリティ分野での展示が増えてきている印象を持ちました。自動車のことではなく、例えば話題の垂直離着陸機eVTOLやいろいろな移動機械です。この分野で、日本では法規制が非常に厳格で、国の許可や免許・法規制の改訂がないと事業化できません。eVTOLについては、トヨタが出資しているJOBYが日本でも商用飛行を始めるというニュースを聞きましたが、飛行体については日本では非常に規制がややこしいので、なかなか自由なビジネス展開は難しいと思います。また、そのような大企業の商品ではなく、例えば(日本でも何回か報道でお騒がせなニュースも聞きますが)電動のスーツケースや電動のスケートボードなど、安価で非常に手軽なモビリティも、日本では実用化が難しい分野です。道路事情そのものの問題もありますし、法規制も関係するので、なかなか日本に持ってくることはできないとは思います。しかし、非常に手軽で安価なので旅行者が悪気なく持ち込むことは十分あり得ます。法令に関する知識が無い人が、お土産で持ってきてしまうこともあるでしょう。昨今のようにインバウンド観光客が激増している状態が続けば、遅かれ早かれそのようなものが普通に持ち込まれ、検挙されるなどのトラブルが増加することは目に見えています。むやみに規制を徹底するだけではなく、もう少しスマートな解決策を考えないと、日本が単純に逆ガラパゴス化する可能性もあります。
まだまだたくさんの印象を抱えて帰国しましたが、別の機会を狙って少しずつご紹介できればと思います。
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