父から子に伝えたいビジネスと人生の教え

私には3人の子供がいる。長女、次女、長男、みんなそれぞれがビジネスパースンとして頑張っている。私は長年、経営者として生きてきた。というより、それ以外の生き方を知らずにここまで来たというのが正解かもしれない。
私の経営者人生は文字通り波乱万丈であり、決して成功者でなく失敗者として、私を知る人たちに記憶されていることだろう。事実から見れば致し方ないことながら、私の子どもたちには、私が語る事実とは異なる真実があることを知っておいてもらいたい。
そんな想いから2020年秋、「幸せは不幸な出来事を装ってやってくる」~父から子に伝えたいビジネスと人生の教え~(マネジメント社)を出版した。今回から拙著の紹介を兼ね、各エッセンスを再吟味していきたいと思っている。
今日は私の子どもたちにリーダーの話しをしよう。
その第1話。
【周りから好かれる経営者の真実】
君たちは周りから好かれる経営者とはどんな経営者だと思うだろう。いつも笑顔を絶やさず社員に優しく接してくれる社長かな。あるいは、少々の失敗をしても決して怒ることなく、元気を出せと励ましてくれる社長だろうか。
また、仕事をしているときは常に厳しいけれど、仕事を離れるととても楽しい社長などいいかもしれない。いずれの社長も悪くはないと思う。悪くはないと思うけれど私には今ひとつ物足りなく思えてしまう。
私がこれまで出会った経営者のなかでこのひとは本当に凄い、素晴らしい経営者だと思った経営者が幾人かいる。それらの社長のどこが他の社長たちとなにが違っていたのだろうか。
それは「率先垂範」を旨とし、実践しているかのような社長であったということだ。彼らはどの社員よりも早く仕事を始め、どの社員よりも現場を知り、どの社員よりも顧客を知り、どの社員よりも売り上げている。
また、彼らはトラブルが起きれば、どの社員よりも早く現場に行き、どの社員より早く動き始めると同時に指示を出す。そんな社長を社員たちは頼もしく思い、誇らしく思っている。そして、社員たちは社長を心から信頼している。
結論を言うと、私は周りから好かれる経営者の本質は「率先垂範」にあると思っている。もちろん、ここで誤解してほしくないのは、「率先垂範」とは単なる“働き者”を意味するわけではないということだ。
朝早く出社し、夜遅くまで会社に残っていれば、それだけで立派な経営者になれるわけではない。もしそれだけで良いのなら、日本中の中小企業経営者はみな名経営者ということになってしまう。そうではないのだ。率先垂範とは、「自分が一番責任を負う覚悟を見せる」ということなのである。
社員は社長の言葉を聞いているようで、実は言葉など半分しか聞いていない。では何を見ているのか。社長の行動を見ているのだ。もっと言えば、困った時にその社長がどう振る舞うかを見ている。
業績が良い時に格好のいいことを言う社長はいくらでもいる。しかし、本当にその人間の器が見えるのは、会社が苦しい時である。売上が落ち大口顧客を失った時。社員が辞めた時。資金繰りが厳しくなった時。
そんな時に、社員の前で不安と愚痴ばかりを口にする経営者なのか。それとも、「大丈夫だ。まず俺がやる」と前に出る経営者なのか。社員たちは冷静に見ている。私自身、経営者人生の中で何度も修羅場を経験してきた。
資金繰りに追われ、眠れぬ夜を過ごしたことも一度や二度ではない。人間関係に悩み、信じていた人との別れを経験したこともある。そんな時、私が一番苦しかったのは、お金の問題よりも「社員たちに不安を与えてしまうこと」だった。
経営者というのは孤独な仕事である。誰にも弱音を吐けず、答えのない問いを抱えながら決断を繰り返していかなければならない。だが、だからといって社員の前で経営者が逃げ腰になれば、組織は一気に崩れていく。
リーダーとは、先頭で旗を振る人間ではない。最後まで逃げずに立ち続ける人間のことだと私は思っている。だから私は若い後継者たちにこう言うことがある。「社長になりたければ、誰よりも先に汗をかきなさい」と。
社員に努力を求めながら、自分は安全地帯にいる。現場も知らない。顧客の苦労も知らない。数字だけを見て指示を出す。そんな経営者に社員が本気でついてくることはない。社員は決して経営理論についていっているのではない。「この人のためなら頑張れる」と思えるかどうかで動いている。
人は理屈で動くようで、最後は感情で動くのである。率先垂範の経営者には、不思議な求心力がある。なぜなら、自分だけ安全圏にいないからだ。現場で汗をかき、顧客に頭を下げ、問題が起きれば真っ先に飛んでいく。社員たちはそんな後ろ姿を見ながら、「この社長を支えたい」と思うようになる。
そして実は、そういう経営者ほど社員に対して優しい。口先だけの優しさではない。本気で社員の人生を守ろうとする優しさである。だから時に厳しい。甘やかすことと、育てることは違うからだ。
本当に社員を思う経営者は、嫌われることを恐れない。耳障りのいいことばかりを言わない。相手の成長を願うからこそ、厳しいことも言う。親子経営でも同じである。親が子に遠慮し、子が親に気を遣い、本音を言えなくなった時、会社は少しずつ弱くなっていく。
本当に相手を思うなら、言うべきことは言わなければならない。そして、自分自身も誰より行動しなければならない。君たちがこれからどんな経営者になるのか、父さんにはわからない。だが、もし周りから本当に信頼され、愛される経営者になりたいと思うなら、覚えておいてほしい。
経営者の評価は、話しのうまさで決まるのではない。肩書きで決まるのでもない。ましてや学歴や知識でもない。「この人は自分たちの先頭に立ってくれる人か」社員たちは、その一点を見ている。
そして、その積み重ねが、最後に“人望”という形になるのだと私は思っている。
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